2017年5月はEver17の舞台!
ということで今年の5月に、ADV屈指の名作と言われる「Ever17 -the out of infinity-」を購入したので、プレイ後感想を書きたいと思います。
作品の特徴(ネタバレなし)
最初に作品の特徴を、本作のネタバレをしない程度に説明させていただきます。
大きな特徴として一つ言えるのは、最終シナリオに作品の全てが詰まっているゲームでした。……そういう作品って多そうなのでありきたりな説明かもしれませんが、Ever17の場合は正にこのフレーズが最も当てはまるゲームなのではないかと感じました。
自分がクリアするまでにかかった時間は、20時間から30時間ぐらいです。言い方は悪いですが、所謂各ヒロインのルートを攻略している間の道中は、若干冗長であるように感じました。伏線を貼るだけ貼って、進展があまりない話が続いてしまう、と言いますか。
しかし、その道中の苦労が全て報われてしまうのが、TRUEエンド。怒涛の伏線回収と、種明かしされる壮大なトリック。とにかく最終シナリオにおける展開が凄まじすぎて、最後には「プレイして良かった」と、絶対思うことができると思います。
2002年に発売された不朽の名作であり、「記憶を消してもう一度やりたい」とプレイヤーに何度も言わしめた、Ever17というゲーム。
そこに秘められた壮大な物語を体感したいという方には、是非オススメしたいです。プレイして損はさせません。
これより先は、各ルートと各キャラクターに対して、ネタバレに大きく踏み込んだ内容を含んだ感想となります。
言われるまでもなくお前の駄文なんて読まねえよって感じだと思いますが、Ever17はネタバレが宇宙一致命的なゲームですので、本作をクリアしていない方は絶対に読まないでください。
各ルートの感想
つぐみ編 グッドエンド
最初に攻略しようと決めていたヒロインは、つぐみでした。
というのもつぐみんがすこすこの実のすこ人間だからというわけではなく、このゲームで推奨される攻略順は「つぐみ→空→優→沙羅」であると、前情報で聞いていたからです。
せっかくのADVなんですから、自分で手探りでルートを探していくというのも手ではありました。しかし、ゲームによっては「順番通りに攻略していかないと話についていけなくなる」という現象も発生してしまうので、僕はADVを遊ぶ時は推奨される攻略順やルートへの入り方を調べてからやるようにしています。
これには自分で物語を切り開いていく楽しみが薄れてしまうというデメリットもありますが、Ever17は順番通りに攻略しなければ難解になってしまう典型的なゲームだったようなので、結果的には正解でした。
ということで最初にクリアしたのはつぐみ編でしたが……。
つぐみ編は途中途中、個人的に納得のできない展開が多くて、あまり楽しむことはできませんでした。
まず、つぐみというキャラがそこまで好きになれませんでした。クールな黒髪長身女性という設定は好きだったのですが。
あれだけ偽善者だとか罵っていた武に対して、最終的に好意を持ったきっかけがわからなかったです。
まあ……「きっかけなんてなくて徐々に武に惹かれていっただけ」ということなんでしょうけど、5月5日のクラゲの中の会話では、武とつぐみって価値観が180度違っていてわかり合えそうになかったので、一体つぐみにどういう心変わりがあったのかと疑問に感じてしまいました。
武の顔面にスプレーをぶっかけた場面でも、彼女のチャーミングな一面が見れて萌えたというよりかは、キャラ崩壊してるようにしか見えなかったです。
また、主人公である武に対しても、そこまで感情移入ができなかったんですよね。
武はつぐみの言葉を借りるならば、偽善者。……というのは少し言いすぎかもしれませんが。なんというか、武の言葉には重みが感じられなかったです。
人は生きなきゃいけないとか、生きている限りいいことはあるとか。まだ人生経験も浅い大学生が、どういう根拠で言ってるんだろう……。と思ってしまいました。
武の言っていることが正しいとか正しくないかとかいう以前に、彼にどういう決意があって人生観を説いてるのかが不明瞭で。身も蓋もないことを言ってしまえば、がきんちょが言葉に酔って綺麗事を並べているようにも見えました。
……しかし、ここまではこのルートを初回クリアした時点での感想。
こんなつぐみエンドに対する印象も、このゲームをクリアした後では全く変わっていました。
つぐみエンドは、全ての始まりのルートだったのですね。
ホクトのパパとママの物語。いわばEver17のプロローグをやらされているようなものでした。
下ネタやりたいだけだろと思わされた二人が交わる場面にも、ちゃんと意味がありました。
そして、二人が辿った結末は……。「主人公が命を犠牲にして愛する人を助けた」というひとつの結末には、初見でも目頭が熱くなったものです。
しかし、これは決して「ひとつの結末」と括ってしまえるほど単純なルートではありませんでした。
まさかこのエンドがそのまま最終シナリオへ繋がり、全ての真相の究明への前日譚となるなんて。全く予想できませんでした。
プレイした時には「ヒロインを一人攻略したったw」という感覚しかなかったのですが、クリア後にここまで見方が変わってしまうとは……。改めてこのゲームに仕掛けられたトリックは凄まじいものだったと感じさせられます。
完全な手の平返しですけど、今では大好きなルートですね。
空編 グッドエンド
人工知能との恋愛を、ここまで美しく描いた物語がかつてあっただろうか。
「単体として完成されているルート」という意味では、個人的にはEver17ではベストでした。
つぐみが怪我をする、ココにウイルスの症状が現れる等、シナリオのほとんどの流れはつぐみ編グッドエンドと同一でしたが、つぐみ編と比べると空と過ごす時間はやはり長かったです。
文字通り倉成が先生となることで、人が持つ感情である「恋」を学んでいく空。
人工知能でありながら強い人間らしさを持っていた空は武に惹かれ、元々与えられていた自分の使命と板挟みになってしまう……という、王道ながら切なすぎる恋愛でした。
そしてつぐみ編と最も異なったのは、武が最後にした選択でした。
武は脱出せずにLeMUに残り、空と共に最期の時間を過ごすことを選びました。マジか……。
つぐみ編を見た限りでは空編のオチは、「空一人がLeMUに取り残されてしまい水没してしまうが、空は俺達の心の中で永遠に生き続けている!」みたいな感じになるのかと予想していました。
要するにロボットやAIのキャラクターが出てきた時に割とありがち(?)な、最後には存在が消え、切ない別れをしてしまうオチだと想像していました。
しかし、その予想の斜め上を行ったのが、倉成武という男。
倉成先生の最後の講義。「ピクマリオンの伝説って、知ってるか?」。BGMが急にKarmaに変わるのがずるかったです。

空を抱きしめ、「約束だからな……」「大丈夫だ、空」「俺は、死なない」と語りかける武。
武は空の、抱き締める手の温もりを、肌の柔らかさを、匂いを、吐息を、鼓動を、記憶を、存在を。確かに感じながらも、永遠に忘れないと誓いました。
これにて武視点の二つのルートは終了しました。
次は少年視点です。
優編 グッドエンド
武視点でもヒロイン感を漂わせていた優。優は武視点でも少年視点でも、最も距離感が近かったヒロインだったように感じました。
具体的な内容は、優との恋愛……というよりは、ココ編の為の伏線をばら撒くのがメインでした。
優編はこのゲームに仕掛けられたトリックの、大きなヒントとなるシナリオ。
優編をクリアした時点から、武視点のエピソードは過去で、少年視点のエピソードは現在なのかな、と予想していました。同時期にプレイしていた方に聞いてみたんですけど、同じことを考えていたようなので、やはり気付いていた方は多かったようです。
やっぱり優の両親の死亡時期の設定を見た時には、流石に何かタネがありそうだと思いますよね。優の父親が34年前に亡くなっていて、母親が15年前に亡くなっていたと聞いて、時間設定に関わるトリックが仕掛けられているのかと勘ぐりたくはなります。
そして武視点での空から聞いたクローンの話、優から聞いたフルネームの食い違い、優にそっくりな優の母親の意味深な発言……優がクローンであることを予想するのは難しくなかったと思います。
しかし、タネがわかったと言っても確信できる材料はなく、まだ予想していた段階でしかなかったです。
何より優に仕掛けられたトリックなんて、言ってしまえばEver17に秘められた謎の切れ端に過ぎないというのが事実。ココ編ではこのゲームが名作たる所以を、次々と見せ付けられていくのでした。
沙羅編 グッドエンド
少年視点ではココの代わりに登場するキャラクターということで、得体の知れない怖さがあった沙羅。
ココと沙羅は同一人物なのか? など、攻略中は考えさせられました。(髪型が微妙に似ている辺り、やはりミスリードだったりしたのでしょうか。)
このルートで一体どんな真相が明かされるのかと思えば、「少年の妹だった」という予想の斜め上の真実でした。
なんだそれ! 空からあっさり告げられた時は思わず笑ってしまいました。
少年は沙羅のことを初対面の時から気にかけていましたし、勘のいい人はなんとなく察していたカラクリでしょうか。ノベルで「生き別れの家族」ってフレーズが出た時って、大体それが登場人物の中に潜んでたりしますよね。
そういうわけで、沙羅ルートで描かれたのは恋愛。ではなく、兄弟愛でした。
沙羅が自分の妹だという事実を受け入れることができずに、一度突き放した少年には、何やってんだよお前と思ってしまいました。確かに少年は沙羅に対して罪悪感があったのかもしれませんが、沙羅は少年に対して悪意なんて持っていません。それどころかずっと会いたいと思っていたはずなのに、突き放すなんて残酷過ぎでは……。
まあ、少年は記憶喪失という状況に置かれており、度々自分が誰かを見捨てたかのような光景を見せ付けられてしまっていたのだから、パニックに陥ってしまうのも仕方ないことだったのかもしれませんね。
本編中でも語られていましたが、二人が兄妹と判明して以降は、二人の立場は逆転していました。
判明するまでは沙羅は少年をパシリに使ったりからかったりするなど、彼女の方が立場が上であるかのような描写が目立ちました。判明して以降は完全にブラコンのような状態になりましたが、やはりこちらが彼女の本性なのでしょうか。
最後は少年が兄らしいカッコイイところを見せ、沙羅を救ってエンディング。これより先、沙羅が自分の両親達と再会できたかどうかはわかりませんが、少なくとも兄という確かな家族と共に、生きていくことは叶ったでしょう。
ココ編
同時期にこのゲームをプレイしていた人にココ編まで来たことを伝えると、「いよいよ本編だね」と言われました。
これまでのヒロインの個別ルートは、空編を筆頭に楽しめたことは楽しめました。しかし、言ってしまえばどのルートも伏線を永遠にばら撒いていただけの話だったことは否定できません。
そういうわけでついにこのルートでは、そんな積みに積みを重ねた数多くのネタの種明かしがされるのだろうと。
……「TRUEに作品の全てが詰まっている」と言われているゲームは数多くあります。Ever17のTRUEに関しては、そう言われている数々の作品を遥かに凌駕してしまうレベルの何かが詰まっていました。
ココ編はグランドエンディングどころか、もはや本編と言ってしまえるものであると。
鏡の前に立つ少年。最初に紐解かれた真実は、少年視点の「少年」は武視点の「少年」とは別人物だった、ということ。
これはなんとなく予想できていたことだったので、あまり驚きはなかったです。白いご飯が食べたいと喚いてキレていた「少年」と、記憶がなくなっても前向きに優と付き合っていく「少年」が、同一人物とはとても考えられませんよね。
それにしても、ADVならではのトリックだな、と思いました。ゲームだからこそできる仕掛けですよね。
実はEver17をプレイする前は「なんでこんなに名作って言われてるのにアニメ化とかしてないの?」と思っていたのですが、これではアニメ化なんて金が無限にあろうができるわけなかったですね。Ever17は、ゲームだからこその作品なのでした。
「今は2034年である」という、優秋から告げられた衝撃の真実。やっぱり武視点は過去だったか!
なお優編をクリアするまでは、どのルートも同じ時間の並行世界で起こっていた物語だと思っていました。
そう考えていた理由は、空ルートでつぐみが「独りにしないで!」という、あたかもつぐみルートの結末と繋がるような発言をしていたこと。何よりも、エンディングをひとつ見た後に出てくる「you are in the infinity loop」という文章。Ever17は「ループもの」のシナリオであると勝手に判断してしまいました。
この文章ってクリアした後でも答えがよくわかっていないのですが、BWはココを助けることができるまで、異なる歴史の中を何度もループさせられていた、という意味でしょうか。BWは時間軸に囚われない存在ですから、「ループさせられていた」というのも少し違和感がありますが。

沙羅の持っていたホログラムペンダントは、17年前の事件の最中につぐみが作ったものだった。
ホクトと沙羅の父親は武で、母親はつぐみ……。これはいくらなんでも予想できなかったです。Ever17をプレイしていて一番鳥肌が立った場面でした。
伏線回収と言われて想像するのは、ばらばらに散りばめられた要素が"繋がっていく"かのような爽快感です。
それにしても、Ever17の伏線回収はやばすぎました。何から何まで繋がりすぎだろこのゲーム。シナリオ考えた人の頭の中どうなってるんだよと、読み進めれば進めるほど思わされていきました。
ようやく「家族」として再会を果たすことができた、ホクトと沙羅とつぐみ。
母親は胸に飛び込んできた息子と娘の体を、お互いの存在を確かめ合うかのように抱き締めました。
これがEver17で一番好きなCGでした。仮にこの絵をEver17をプレイし始めた頃に見たとしても、ただ偶然同じ事件に巻き込まれただけの三人が、一緒に映っているだけとしか思わないでしょう。
彼女らの関係とそれまでの苦悩が解き明かされた今となっては、全く見方が変わります。本当に泣ける……。
そしてその後ホクトが敵意を向け、問い詰めようとしたのは、倉成武と名乗っていた人物でした。
腑に落ちた瞬間でした。今2034年この場に居合わせている人物の中で、つぐみと空は見た目が変わらない、優はクローン、少年は名前の違う別人、ということで説明が付きますが、唯一武だけは存在が矛盾しているからです。
まさかプレイヤーがずっと「我らが主人公」だと思っていた武が、今回の件の黒幕だった……?
そうだったら色々な意味でやばすぎる展開だと思いましたが、どうやらそうじゃない模様。
偽武は自分の正体は、桑古木涼権であると言いました。ここで新キャラクターの登場か……と思いきや、まさかの2017年の「少年」の真の名前でした。ここでまた記憶喪失である設定が活かされ、繋がるとは……。
そして、全ての種明かしがされたのは、LeMUから脱出した後でした。
優春と会ったホクトが告げられた事実。自分はホクトではなく、ブリック・ヴィンケルだった。
何よりも今回の計画の目的に度肝を抜かされました。そんなのありか!と。
第三視点の話は今まで綿密に伏線が貼られてきたので、どこかで活かされるとは思っていましたが、まさか今回の計画の目的そのものとなっていたなんて。てっきり精々「ホクトが過去と未来を行き来できる不思議な能力に目覚めて活躍する」的な展開になるのかと思っていたのですが、全ては計算されていたことだったんですね。
自らの使命を果たすべく、2017年の世界に飛ぶBW。「確定した過去を変えずに結果を変えろ」というやつです。
つぐみ編のところでも書きましたが、「最初と最後が繋がる」というのは熱かったですね。
ココと武をコールドスリープさせた後、計画の内容を優春に伝えるBW。
今回の計画は、優春がBWから教えて貰ったものだった。しかしそのBWが伝えた計画の内容は、17年後の優春から教えられたものそのまま。発案者はBWということにされてるものの、一体真に計画を考えた人は誰なのでしょうか……?
不思議な状況となってしまいました。所謂「卵と鶏のパラドックス」ですね。これもまたインフィニティループなのでしょうか。
BWは2034年の「ホクトが生きている時間軸」に戻り、自らの手でココと武を助け出します。
自分が1日眠っていたか2日眠っていたかわからない、と言う武。17年間お兄ちゃんを待っていた、と言うココ。対称的でした。
今まで存在自体がふわふわしていて掴み所のなかったココでしたが、ようやく本ルートがココ編と言われている意味がわかりました。確かにココ編ですね、これは。
ココは唯一、この物語の主人公を真正面から認識してくれる人物なのですから。
キャラクターに対する雑感
お馴染みのキャラクターに対する感想を振り返っていきたいと思います。
倉成 武
主人公の癖にガキ大将みたいな顔だな! ……と、思ってたらこれですよ。こんなにイケメンだったら偽善者だろうがつぐみも惚れますよね。
最初は「言葉に重みが感じられない」という理由であまり好きになれなかった主人公だったのですが、終わった後ではそんな感想も抱かなくなりました。
確かに武は世のことを何もわかっていませんでしたが、それでも自分の意見を曲げようとせず、彼なりにつぐみと向き合い続けていました。つぐみが彼に好意を持ったのは、その直向さだったのですね。
武はつぐみ編でも空編でも、最期の最期まで「俺は死なない」と言っていました。ここは本当に彼の性格そのものを象徴している場面だと感じました。
なお、プレイ中それぞれの視点に出てくる少年が別人というのは予想の範疇ではありましたが、まさか武まで別人だとは思いませんでした。性格が瓜二つでしたから。
桑古木くんが頑張って演じていたのだから、性格が似ているのも当たり前でした。
武視点は主人公の父親の物語が描かれる、「過去編」のエピソードだったとも言えますね。全てはここから始まった、と。
ホクト
プレイヤーが最初桑古木だと思い込んでいた人物。
実は別人でしたというオチでしたが、声は変わらず瓜二つ。見た目も髪色と目の色と身長ぐらいしか違わなかったので、なんだかんだで桑古木のそっくりさんでした。
BWに時間軸を誤認させる為には、「桑古木役」には2017年の桑古木と似てるい男を用意しなければいけなかったわけで、ホクトはそれには打ってつけだったのかもしれません。
……と言っても、2034年の事件の役者達はあらかじめ"決まっていた"わけですから、たまたま似ていただけなんですかね。前述の通り「卵が先か鶏が先か」のパラドックスが起きている不思議な話ですから、どういう解釈をしても矛盾が起きてしまいますね。
ホクトが桑古木と似ていたことは必然だったと。改めて、不思議な物語でした。
一応BWを除けば「主人公」に最も近いキャラクターなわけですが……武と比べると、そこまで好きになれるキャラではなかったですね。申し訳ないことに。
ホクトは彼視点のルートでは優秋や沙羅に対して頼もしいところを見せていましたし、決めるところは決めてくれるカッコよさはあったのですが、武のようななんとしてでもエゴを貫き通すような男らしさと比べると見劣りしてしまいます。
最後にBWを乗っ取った場面とかは、主人公らしくて良かったと思ったんですけどね。総合的にはどうしても他のキャラと比べると印象が薄かったです。
小町 つぐみ
一番印象を手の平返ししてしまったキャラ。なんだこのテンプレなクーデレヒロインは! ……なんて思っていてごめんなさい。
このゲームから人間ドラマ要素を感じさせられる要因は、彼女の存在が最も大きいということは間違いないと思います。
つぐみの壮絶な過去は、つぐみ編で語られた通り。しかし彼女の悲劇は語られた内容だけでなく、むしろそこから始まったのでした。
とある男性と恋に落ち、子供を授かり、追手から逃げながらも子供を育て続け。なんという複雑怪奇な人生を歩んできたキャラなんでしょう。ココ編での子供達を抱きしめているCGには泣かされました。
彼女が空編で武に向けて発していた、「ひとりにしないで」という言葉。
あの言葉はてっきりつぐみ編ラストと繋がっており、つぐみがなんらかの理由で別世界線の記憶を保持していて発言したのかと思い込んでいました。しかしそんなリーディングシュタイナーな真相はこのゲームではなかったので、「ひとりにしないで」という言葉は、紛れも無い彼女の本質だったのですね。
だからこそ子供達を大切に育ててきたつぐみでしたが、彼女は結局子供達と離れ離れになってしまいました。自分がひとりになってしまったことよりも、子供達を孤独にさせてしまったことが、彼女にとっての大きなカルマだったと思われます。
ホクトと沙羅と再会を果たしたつぐみは、彼らに謝りながらも、「貴方達のことを忘れたことはなかった」と言いました。
それは17年の時を経て、つぐみが本当の愛を再び手に入れた瞬間なのだと感じました。
茜ヶ崎 空
初登場の時点から人外であることを匂わせていた空ですが、正体はまさかの人工知能でした。
他の方の感想を見ていると、とても人気の高いキャラクターであることが伺えました。計画からはほぼ蚊帳の外であるように扱われていたキャラではありましたが、やはり個別ルートの完成度が印象強いでしょうか。
思えば彼女のルートは「恋」そのものがテーマとなっているわけで、確かに一番真っ当な恋愛してたヒロインだったことは間違いないですよね。
XBOX版では瑞々しい制服姿の彼女のCGを拝むことができるそうで。(武の妄想?らしいですね。)
個人的にEver17では「人と人の愛情」がしばしば描かれており、テーマになっていることだと思っているのですが、空は別の視点からそれを体現するキャラだったと思います。
エピローグでの17年の時を経た「ポチッとな!」には、込み上げてくるものがありました。空編グッドエンドを見た後だと、尚更です。
田中 優美清春香菜
2034年に起きた事件の首謀者。髪長い立ち絵が美人過ぎるので優秋より優春の方が好きです。
なんというか絵に描いたような男勝りなキャラクターですが、ココ編ではそんな性格からは予想できないような、大きなカルマを背負っていることが明らかにされました。武に自らの「罪」を打ち明ける時の、穏やかで悟ったかのような口調が好きすぎる。
つぐみ・空編のバットエンドを見ると、彼女は彼女で武に好意を抱いていたことが判明します。武を救うことは紛れも無く、計画完遂の強い動機となっていたと思われます。
ウイルスの抗体を即興で作ったり、ライプリヒをたった一人で(桑古木の協力もあったかもしれませんが)潰してしまうなど、あまりにもスペックが高すぎる人でした。
田中 優美清秋香菜
性格はやはり優春と瓜二つ。寝ている武の顔にラクガキをする所なんかは、打ち合わせも何もしていないのに優春の行動と一致してしまっている辺り、やはり彼女はクローンなのだと思い知らされます。
優春と違って罪の独白がなかったり、大人になった後の語りがなかったりしたので、どちらかと言えば優秋の方がやや子供っぽい面が目立ちましたかね。まあ、実際子供なんですけど。
優春の方が落ち着き払っていたこともあり、優秋より優春の方が頑張っているキャラだった……ように見えますが、よくよく考えてみると彼女の設定も壮絶です。
自分自身がクローンであり、母親と呼んでいた人物は自分のオリジナル。自分がずっと追いかけていた父親は、既に亡くなっていた。記憶喪失どころか、自分が今まで持っていた記憶が全て偽者だったかのような、そんな感覚に苛まされただろうと思います。
しかし優秋は、優春の「あなたは私の全てよ」という言葉を。真実を、受け入れることを選択しました。
無鉄砲で、おてんばで、危険なほどに純粋で、感情を押し殺すことさえ知らない。そんな彼女はやっぱり、優春の娘であり、全てなのでした。
桑古木 涼権
影の立役者という言葉が死ぬほど似合うキャラクター。
優春とは違いその正体を隠しながらも、計画を内側からコントロールしていた人物でした。「ここから先は俺からは言えない」と発言している辺り、あくまで裏方役に徹しようとしていることが伺えます。
優春の計画の準備をする他にも、倉成武をそっくりそのまま演じることは、只ならぬ努力を要することだったと思います。何しろ桑古木も優春も聞いたことがないはずの武の台詞まで完コピしていたのですから。
更に二人が立てた計画は、紛れも無く命の危険も孕んでいます。犠牲者を一人も出さないようにすることが、彼に課せられた使命だったのかもしれません。少年視点ラストでは桑古木は先頭に立って、全員を誘導していましたね。
彼がここまでのことをしようと決めた行動原理は、たった二つ。17年前の事件を共に過ごした、自分の好きな人を救う為と、自分の尊敬している人を救う為だった。タツタサンドにキレていたあの頃から、よくもここまで成長しましたね。
目立ってはいないけれど、本当にかっこいいキャラだった。男キャラの中では一番好きです。
松永 沙羅
なぜか忍者口調のキャラ。ホクトとは同級生的お似合いカップルのような関係になるかと思いきや、まさかの兄妹でした。
どうでもいいですけど容姿や性格や声で某作品の金髪ツインテキャラを思い出しました。(すぐに他作品と比較する信者の鑑)
ホクトが実兄であることもつぐみが実母であることも、彼女には早くからわかっていたようです。
とんでもなく複雑な事情を抱えつつも、終始明るく振舞い続けていたのは、つぐみとは違ったと言えます。
優編の終盤では「『用事』は成し終えた」「少年を連れて行ったら恨まれる」など、つぐみと絶縁したかのようなことを匂わせていました。喧嘩もしていましたし、沙羅はつぐみのことを誤解していたようですね。
「そうやってあの人からも逃げた」とか言ってましたし、つぐみが武を見捨てたとでも思っていたのでしょうか。だとしたらつぐみも沙羅も報われないですね……。
つぐみと同じく悲痛な人生を歩み、ずっと家族愛に飢えながら生きてきた沙羅。最終的には母親とも、父親とも、大好きな兄とも、会うことができました。
なんだかんだでこのゲームで一番好きなキャラになりました。ニンニン。
八神 ココ
近年ではこういう幼女キャラは見た目よりも大人びいていたり、声が案外落ち着いていることが多いですが、ココはそんなことはなかったです。子供っぽさが全面に押し出されていたので、一周回って珍しいキャラでした。
子供っぽさがあったと言っても、その実は神をも冒涜するチート能力の持ち主。やべーやつでした。
沙羅とは何か関係があるかと思っていましたが、全然赤の他人でしたね。確か武視点の時に寝言で「お兄ちゃん」とか呟いていたので、てっきり沙羅と同一人物か何かかと思っていました。
ココの言うお兄ちゃんはホクトのことではなく、BWのことでしたね。これもミスリードだったのでしょうか。
BWは四次元世界の住人であるが故に、別の歴史や過去のことを記憶できていたわけですが、ココはどこからどう見ても三次元世界の住人。
どうしてあんな不思議な能力を使えるのかは不明。最後まで何者なのかよくわからないキャラでした。
ココは四次元世界(プレイヤー)と三次元世界(登場人物)の橋渡しとなる存在だったと思っています。ちょうど本人の能力も四次元世界の住人と会話できるということでしたし。
なんとも立ち位置がふわふわしていたキャラでしたが、彼女がいなかったらプレイヤーは置いてけぼりにされていたこと間違いなしです。BWを唯一認識してくれるキャラなのですから。
おわりに
武とココを無事に救い出した後は、エピローグが流れました。
各登場人物視点で語られた、事件に対する想い。トリックの壮大さで有名な本作品ですが、それぞれの登場人物がドラマを持っていたということも、改めて感じさせられました。
最後は登場人物達が一斉に「こちら」を向き、笑いかけるCGが現れました。
ここでようやく気付きました。BWは自分だったんだ、と。このゲームは最初から最後までBWの視点から描かれており、自分が武と少年に取り憑いて舞台を見ていただけ、だったんですね。
僕達はセーブ&ロードによって、時間を遡ることが出来る。スキップを使って時間を早送りすることもできる。「時間に囚われない存在」である第三視点の正体は、このゲームのプレイヤーだった。
確かに僕らは2017年の事件と2034年の事件が同じものだと、見事に騙されていました。だからこそ、優秋と桑古木の計画によってこの世界に召喚させられたのは、僕達プレイヤーだったのですね。
空が「誰かに観測されない限り存在できない」とはよく言ったもの。観測されることで初めて現れることができるのは、このゲームの登場人物全員に言えることでした。
彼らは僕達がゲームを開始し、観測することで、初めて存在することができる、「キャラクター達」だったのですから。
ということで、Ever17をクリアしました。
名作と言われるのも全力でわかってしまうぐらい、素晴らしいゲームでした。
各登場人物が持っていたドラマも見所がありましたが、何よりもすごいのは、物語に仕組まれたトリック。プレイヤーが同一人物だと思っていた人物は実は別人、同じ事件だと思われていたのは実は過去と現代の別々の事件、初対面に見える登場人物同士は実は家族だった……ここまで終盤の伏線回収が物凄いゲームは初めてでした。
ココ編に入るまでが少し大変だというのは、紛れも無いマイナス点だと思います。
同じ内容のテキストも多く、スキップもあまり早くなく、伏線が回収されることもほぼない。というわけで、道中で退屈に感じてしまったことは否定できません。
しかし、ココ編をクリアした後では、最後までやって良かったという気持ちしかありませんでした。
ここまでの苦労が報われたなんてレベルじゃない、Ever17の壮大な物語を見ることができたのですから。