
2011年9月30日にALcotより発売された18禁恋愛アドベンチャーゲームです。
『鬼ごっこ!』のファンディスクにあたる作品にして、美少女福祉文化賞未受賞作品です。
4つのアフターストーリーが収録されているほか、主人公の妹である浦部葵が攻略可能ヒロインに昇格したことが売りとなっています。
アフターストーリーはどれもが一時間程度で読み終わる程度のボリュームしかありませんでしたが、前作でユーザーに強烈な印象を残してきた葵のルートが満を持して実装されたという意味で大きく価値のあるファンディスクだと思います。
追記よりネタバレを踏まえた感想になります。
葵ルート
ファン待望の葵ルートにして、『鬼ごっこ!』とは一味違うシナリオだなぁと感じました。
無印の個別ルートは秘宝というSF要素が土台となり、「ヒロインが危機に陥ってそれを主人公が解決していく」というのが大まかなあらすじとなっていたと思いますが、葵ルートには秘宝の話は一切絡んできませんでした。
その分どうなっていたかというと、「近親愛の異常性」について大きくフォーカスがされていました。
実妹ルートとしては王道的な構造ではあると同時に、ファンタジー設定を極力排除しながら登場人物達が「自分らの在り方」を探求することが主題となっていたシナリオは、前作の個別ルートとは一線を画していたと思います。暮葉ルートが少し近かったぐらいでしょうか。
特に意外に思ったのは、無印の個別ルートではキャンキャン喚いてばかりであった彼女が一転してしおらしくなっていたことでした。
自分がこれまで見てきた葵のような遠慮のない性格の実妹のルートは、Hシーンですらお互いに憎まれ口を叩き合っているような関係性になっていることも多くありましたが、従来の葵の性格からはかけ離れたシリアス調のルートだったと思います。

共犯者って単語の出るルートはやっぱり良いよなぁ。
周囲の人物の反応も多様で面白かったですね。

シスコンでしかも妹ものエロDVDを所持している熊吉と、又甥の関係にあたる圭介に対して一途だった乙女の二人は、存在が恋愛の自由性を肯定しているような人達なので応援されるというのは納得でした。
委員会メンバーの中で唯一強い反発をした灯も、本音では自分の境遇と照らし合わせて心配しているようでした。
悪路は本来王族でありながら地上で子孫を繁栄させているということで自由奔放ではありますが、やはり初代温羅の意志を継いでいる以上は葵と圭介の恋愛を諸手を挙げて許してあげるわけにはいかないというのも納得できました。

冒頭での「お兄ちゃんは妹の為に存在する」という台詞と対比になっているのが良かったですね。
締めに相応しく感慨深い台詞でした。
加奈・鈴鹿アフター
本来の鈴鹿の容姿が金髪緑眼なのもなるほどなぁと思いました。
前作で乙姫の容姿がオトァケルと似ていたのはオトァケルがクローンかなんかだったからだと考えていたのですが、これを見る限りでは†メフィラスポテフ第7白色彗星人†に共通していた特徴のようですね。
1800年間地球人と交配を繰り返しながら子孫を残したオトァケルが暮葉にそっくりというのも、遺伝子の残り方がとても極端だったんだなぁと思いました。
内容としては完全に鈴鹿ルートでした。加奈と鈴鹿の台詞量は比べるまでもなかったと思います。
乙姫や乙女の正体についても仄めかされており、前作をクリアした人へのご褒美というような後日談でしたね。
鈴鹿を救い出したのにかかった期間は3年だったと明かされました。
土蜘蛛の秘匿する天の書と土の書、そして秘宝のルーツである乙姫様の協力があるならば一瞬で見つけられたんじゃないかと思いつつも、流石に物の所在ばかりは変わり続けるでしょうし3年かかることもおかしくないのかもしれません。天の書の信ぴょう性も結構ガバいところがありましたからね。
鈴鹿は1800年前戦死した人物であり、本来は生きているはずがない存在です。
しかし、彼女の状態は「魂だけの存在になっても土蜘蛛を撲滅するまで戦い続ける」という覚悟の下の結果であり、決して楽な生き方ではなかったです。
圭介は鈴鹿のことを1800年間最も苦しい思いをしてきた人物と称し、彼女を幸せにすることを誓ったのでした。
この辺りの鈴鹿への向き合い方がアフターで触れられていたのは嬉しかったです。
自分としても前作をプレイした時点では、鈴鹿は「加奈の中に居候している本来生きているはずのない人物」という印象がないこともなかったです。
しかし、そもそも1800年間不死身のまま戦い続けていたということ自体が人柱になるのに等しい選択だったのですから、その埋め合わせとして人並みの幸せを最後に手に入れて欲しいという気持ちも理解できました。
それにしても今更ですが、土蜘蛛との戦いを終わらせるのに1800年かかったというのもすごい長丁場でしたね。
乙女ルートの描写を見る限り乙姫様は鈴鹿や西園寺家と連携していることが伺えましたが、タマテバコ級の超テクノロジーを山ほど有しているのだからもう少し具体的なサポートはできなかったのかなとは思いました。地上に極力干渉しないというのが彼女の方針でしたが、土蜘蛛に関しては彼女達の身から出た錆ですからね。
とはいえ、撲滅という過激な解決手段に出なかったおかげで結果的には暮葉の幸せも確保でき、円満解決にこぎ着けられたというのはありました。
暮葉アフター
暮葉が課せられた最終テストは、欲望に溺れないかどうかを見るもの……ではなく、欲望をコントロールできるかどうかを見るものでした。
結果的には暮葉は欲に溺れたことで逆に合格となりました。
今までの苦労を投げ捨ててまで愛し合いたいと願う暮葉、それに応えようとする圭介、というのは中々エモくもありました。
しかし……やはり未来を本当に見据えているのならば、お前ら2日ぐらい我慢しろや!と言いたくはなりました。逆に2日間の禁欲すらできずによく1年間も耐えられたなと思います。
試験の内容も内容でしたね。
結局試験内容は伏せられていたので圭介達が試験内容を曲解していたせいもありましたが、ここまで精神的に追い詰めてしまっては前作のルートのように黒い欲望が発現してもおかしくなかったと思います。実際暮葉が二人で逃げ出したいという気持ちを吐露していた辺りはかなり危なっかしかったと思います。
この辺りの違和感は「小槌のコントロール」という部分がファンタジーで原理が謎に包まれていた点から生まれていたと思います。
一応暮葉達は欲に溺れてしまったとはいえ、「明日須久那さんに謝る」「不合格になっても1年でも10年でも待ち続ける」と言ってのけた辺りは前向きだったので、今回大事だったのはそういう部分だったのでしょうか?
正直「二人の間で禁忌だと結論付いている行為を目先の快楽に囚われて破ってしまう」というのは、それこそ小槌につけ込まれそうなタイプの欲望に見えましたが……。たとえ圭介が10年待てるとしても他の人にとっては堪ったもんじゃなさそうです。
ちょっと理解が及ばない部分もあったルートでしたが、暮葉が可愛かったのでOKです。暮葉といえば髪なんだよね。
何気にHシーンが4つあったりして優遇されているのを感じました。
灯アフター
何気に圭介が一度島を離れた唯一のルートなんだなぁ。
前作で灯が一年で吉備津宮家を変えられたという件ですが、三賢人に交渉したらあっさり通ったということが明かされました。
何やら三賢人は「吉備津宮家の存続」と「秘宝の管理」さえ叶えばどうでも良いとのこと。まあ、そもそも彼ら自体が乙姫様がよこしたシステムだったので、それはそうですよね。
前作ではこの「吉備津宮家の存続」の部分の強要の仕方が極端であり、それこそ真紀さんが倒れてしまうほどの激務を押し付けていました。それがまさか「こっちはこっちでやらせてもらう」という言葉一つで解決できてしまうことだったとは……。
やはり相変わらず気になるのは、その秘宝を盗んでくるような存在である温羅が御三家に受け入れられるようになるまで、どのように改革されていったかでした。
作中では「吉備津宮家の在り方を変えるのは護の本懐だった」と再び言及されていましたが、同時に「秘宝を一切使用せずに守護する」というのも護さんの意志だったはずなので、この辺りがどう片付けられたのかは気になりました。
結局御三家側が温羅の思想を受け入れたのか、逆に温羅が御三家の考えを受け入れた上で和解に転じたのか、アフターでも最後まで明言されることはありませんでした。
内容としては完全に真紀さんルートでした。
これは真紀さんが灯の立場を脅かすほどに活躍をしたとかいうネタではなく、マジな意味で真紀さんルートでした。真紀さんとせっくすします。
本作は実妹ルートがある時点で今更世間体どうこうの突っ込みを入れるのは無粋だとしても、よもやヒロインのアフターで義母ものエロゲにしてくるとは思いませんでした。その義母も父親の再婚相手的な意味ではなく、嫁の母的な意味でだしなぁ……。
それにしても娘の夫をノリノリで誘惑してくる真紀さんは衝撃的でしたね。こんなに強烈なキャラクターだったとは。
彼女自身未亡人という不幸な背景があること、生命の桃によって性欲も増大していること、圭介視点でも灯の未来の姿を真紀さんに重ねてしまっている気持ちが半分あることなど、至るまでの根拠は説明されていました。
とはいえ、灯とのイチャイチャを期待していた人からしてみるとまさかの内容だったと思います。逆に性癖ど真ん中だった方もいらっしゃると思いますが。
乙女アフター
船と地上の橋渡しというのは「少しずつ相互理解を深めていく」ことであると明かされ、その第一歩として絵本を描いていくというのが乙女のやりたいことでした。
前作で言われていた橋渡しの内容が言及されたわけですが、秘宝の存在を公にするというのは結構思い切っていますよね。兵器である以上はどこまで行っても悪用されるリスクが付き纏うので、どう管理するにしても公表の仕方はかなり慎重にやる必要がありそうですが……。
一応原作ではTRUEにあたる乙女先輩のルートでしたが、本アフターは全てのルートの中で最も短く当たり障りのない話でした。というかこのゲーム、そこそこ重要人物だったはずの玉彦先生も一切登場しませんでしたね。
乙姫様はちょろっとだけ登場しましたが、橋渡しの具体的な手段に関しても上記のように触れられる程度であり、依然として謎は多かったです。
しかし、最後のCGは感動的でしたね。どのルートよりも未来を描いていたラストの一枚絵は、『鬼ごっこ!』のTRUEルートのアフターという位置付けの物語に相応しい締めの一枚だったと思います。
これで『鬼ごっこ!』の世界も終わりかー……というしんみりした気持ちにさせられましたね。;;
アフターストーリーに関しては、もう少し前作の苦難を乗り越えて辿り着いた二人の生き方をリマインドしていくとか、前作で不明だった箇所について補足がされるかと思いきや、あまりそういう部分はなかったですね。
前作『鬼ごっこ!』のシナリオの完成度が高かっただけあった期待していたのですが、今作は当たり障りのない展開に留まっていました。
自分は前作の灯ルートや乙女ルートで残った謎が補完されることを期待していたので、アフターの満足度としては少し低めでした。
しかし、相変わらず『鬼ごっこ!』特有のバカバカしいノリは健在だったので、そこは十分に楽しむことができました。
また、どこまで行ってもエロゲなので「ヒロインとのえっちがえっちならOK」というファンの方もいらっしゃると思いますし、その点の不備のなさに関しては流石のALcot様でした。急にお義母さんがシュバってヒロイン昇格してきた灯アフターについては、幅広いニーズに応えようという画策の結果が伺えました。

そして、やはり本作の最大の価値は葵ちゃんのルートが実装されたことだったと思います。このルートに関してはシリアスな描写の多いシナリオになっていて面白かったです。
つくづく彼女は『鬼ごっこ!』随一の神キャラだと感じました。オヤジ臭い声の演技が面白過ぎる。