
2011年・2012年に発売された逆転裁判スピンオフシリーズである『逆転検事』のコンピレーション作品となります。
『成歩堂セレクション』『王泥喜セレクション』『成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟』に続き、遂に(レイ逆を除く)逆転裁判シリーズの全てのタイトルが最新ハードでプレイできるようになりました。
各所のレビューサイトで受ける印象としては、逆転検事1はやや低めの評価をされている傾向にあるものの、逆転検事2は†シリーズ最高傑作†と評されることも多々ある人気作となっています。
中でも検事2のBGM『追究~つきとめたくて~』はシリーズで最も人気の曲と言っても過言ではないと思います。
自分としても検事シリーズは思い入れのあるゲームであり、中でも逆転検事2はシリーズで最も好きな作品です。
少年時代にセーブデータを消去しながら同じゲームを周回プレイするというのはどのご家庭でもある話だと思いますが、自分の場合は逆転裁判シリーズでそういった遊び方をしていました。逆転検事1は2周、逆転検事2は3周プレイしました。
既に何周もしたゲームであり、御剣セレクションではゲームオーバーになっても「ゲージ全回復して間違えた場所からリトライ」というチート技を使うことができるので、せっかくなので今回のプレイではテキスト全回収を目指していました。
捜査パートで調べられるものは全て調べ、会話時は証拠品を全てつきつけ、対決時は一回以上はわざと間違えるようにし、検事1では進行度に合わせて変わるゲームオーバー時のイベントも見るようにしていました。
おかげで累計40回近くゲームオーバーになったのでミツルギさんがエラくポンコツになってしまいました。特に検事シリーズは難易度が低めのデザインをされているので、間違える度に周りのキャラが優しくヒントを教えてくれるようになってるのが一層情けなさを助長していましたね……。
追記よりネタバレを踏まえた感想を書いていきます。
前述の通り既に何周もプレイしているゲームなので、あくまで簡潔に。
逆転検事
検事シリーズで度々指摘されている問題点といえば、ヒロインの美雲とライバルの狼捜査官をはじめとした、新キャラクター達の印象の薄さだと思います。
それもそのはずで、彼女らは実質的に3話と5話にしか登場しません。そしてその3話と5話は両方ともオバチャンが登場してくる上、5話ではヤハリが登場するので完全に存在が食われてしまっていました。よりによって個性の塊みたいなこの二人と同席というのは運の尽きだったとしか……。
美雲が容疑者として疑いの目を向けられる場面は5話序盤の一瞬だけです。ヒロイン度では最近留置所イラストシート付きのねんどろいどが発売された本家ヒロインには遠く及びません。
構成の都合上美雲ではなくイトノコや冥と捜査する機会も多いので、相棒としての印象も薄めでした。
狼捜査官はコピペが作られるほどにトンデモ推理を展開してくる人物です。検事2の水鏡と比べると手強さが微塵もないわけですが、今回のプレイではそのポンコツ加減が一周周って面白くは感じました。
それにしても狼は「ロジック?ハッ!犯罪を撲滅する方法は怪しい奴を片っ端から捕まえることよ!」なんて言っていた割には5話では真実を追い求める姿勢をそれなりに見せていたので、ちょっと人となりが掴めないんですよね。普通にミツルギに感化されて考えが変わったってことなのかなぁ。
ライバル役としては物足りない部分はあったものの、冥を犯人認定することであえてピエロを演じたり、ラスボスを失脚させて治外法権の守りを崩すという芸当は、彼の強引さならではの展開だったと思いました。前者って相手に有能だと思われていたら警戒されてしまうはずなので、つまり……。
ですから印象が薄いというわけではないのですが、それでも狼が検事を憎むことになった過去の事件の詳細は今作で絡めるべきだったとは感じました。ライバルキャラが事件の関係者となるのはシリーズ恒例の展開ではありますからね。本作はライバルキャラではなくその補佐が重要なポジションについていました。
それ以外の証人・犯人役のキャラクターも、主観としては個性が薄く地味ではあると思います。
3話の犯人なんてシリーズ史上最も印象が残らないボスではないでしょうか。というのも3話は初登場する美雲と狼に尺を割かれるほか、オバチャン・茜・原灰・タイホくん・プロトタイホくんという過去作のキャラクターも姿を見せるので、登場人物が多すぎるんですよね。
そもそもの尋問回数が少ない上にブレイクモーションの動きが小さいなどもあり、父親や彼女共々印象に残りにくいキャラクターだったと思います。
本作のオリジナルキャラクターの中で好きだったのは、2話のCAコンビでしたね。
コノミチさんは初見の印象では御剣を冤罪で捕まえてくるような迷惑な人物でしたが、その後は贖罪として嘘をついてまで御剣の捜査に許可を出すこと、毒々しいデザインとその売上を気にするなどの人間味が見えました。白音若菜は、すごい。
他によく言われているのは全体的なモーションのもっさり感だと思います。
中でも冥のムチのモーションは彼女の登場回数も相まって流れる機会がかなり多いので、テンポの悪さを大いに助長しています。検事2では露骨に修正されていた部分ですね。
とはいえ、これは逆転裁判5以降の3Dモデルを経験した今となっては全く気になりませんでした。星成のため息やスサト投げの方がよっぽどテンポ削いでますよ。
そして逆転検事を語る上で欠かせないのは、シリーズ史上最も往生際の悪い伝説のラスボスでしょう。
改めてプレイしてみると本当に笑えました。このおじいちゃん言い訳しかしねえ……。
とはいえ言い逃れをしてくるのはラスボスならば必然であり、決定的な証拠がないんだからそりゃ自白してこないよなとは改めて感じました。
逆に他の犯人は認めるのが早すぎますよね。3話はキグルミ殺人だったせいで物的な証拠が存在せず、4話のカズラはヤタガラスのカギのギミックをしらばっくれ続ければ良かったのに……とは感じました。
可能性の提示を続けて最後に言い逃れのできない証拠をつきつけるという流れは検事2のラスボス戦と同じです。それでも検事1の方が圧倒的に往生際が悪く感じる最大の要因は、偏に演出面だと考えています。
証拠品をつきつけられて叫び声をあげたと思いきや、「待った!それは証拠にはならない!」と反証をしてくるラスボス。威厳も何もありません。
それと「くっ、ここまでか…」→「待った!」→〇〇参戦!……の流れも多すぎますよね。おかげで総力戦感は確かに出ていましたが、同じ演出を繰り返し見せられるのでは一体いつ終わるんだという感情も沸いてきてしまいます。
他に個人的に違和感があったところでいうと、狼捜査官がラスボスを失脚させて治外法権を無効にする切り口でしたね。
有罪判決が出たわけでもなく、逮捕されたわけでもなく、捜査段階で容疑がかけられただけ。なのにも関わらずものの数時間(?)で大使の資格を失うなんて……そんなことあるのか……?
犯行タイミングがアリバイのない人物が多すぎるトノサマンショー中だったり、凶器の受け渡しがボウガンを使った"円運動"であることなど、つくづくラスボスの犯行を立証できたのは奇跡だったと思います。
特にオバチャンがたまたまくすねたとのさまんじゅうにたまたま血痕が付着していたというのがミラクルですよね。結局それ以外に立証したのは殺害方法と犯行動機だけだったので、これがなかったら詰んでたと思うとオバチャンの功績の大きさと言ったらもう……。
上記の通り最も盛り上がらなければならない最終章でグダってしまうので、読後感が芳しくないというのが検事1が酷評されやすい理由だと思います。
とはいえ目を見張る部分も多く、中でも1話から5話まで事件が一本の線で繋がっているという構成は、シリーズ上では検事1が初の試みだったと思います。
本家シリーズも最終話以前のエピソードに伏線を潜ませている構成にはなっていますが、検事1は1~4話の犯人が全員黒幕の手先という点で一貫しているので、シリーズ全体で見ても元凶へと段階的に近づいていく感覚が強いんですよね。正確には3話は犯人ではなくその父親が手先でしたが。
逆転検事2
逆転裁判シリーズといえば犯人の豹変も特徴のひとつとなっていますが、本作の「2話で弁護した気の弱そうな青年が真の黒幕」というインパクトは計り知れません。豹変の落差は検事2の黒幕がシリーズ中でもダントツでトップだと思います。
自分としても子供の頃に逆転検事2に魅了された最たる理由がそれでしたね。1話~4話の事件全てが伏線となっていて、最後の最後で豹変した黒幕が姿を見せるという構成は非常にエンタメ性に富んでおり、子供の頭でもわかりやすい面白さがありました。
ラスボスは最後までボロを出さずに反証してくる強敵であり、「ナツミが気絶していた事実を利用して目撃証言に対してその場で反証する」などは頭の回転の早さを感じました。
一連の犯行においてもとにかく自分に繋がる証拠を徹底的に排除するように努めており、「傍受されるリスクがある時だけ盗聴器をOFFにする」「足がつかないように死体の死亡推定時刻をずらす」「空き地で練習中のシモンを見て罪を擦り付けるルートをアドリブで思いつく」など、どこまでも用意周到でした。あれだけ事件を裏で操っていたのにも関わらず結局御剣は最後まで彼の殺人教唆を立証することはできませんでした。
特にシモンに罪を着せる機転を利かせたのは聡く、圧死というレアケの中でも凶器の誤認に見事に成功していました。唯一ラスボスをお縄にできる情報がバルーンについた弾痕と花粉だったことを考えると、自分が安全圏に居続けるには真の凶器から遠ざけることが最も効果的なんですよね。
一応犯行のツッコミどころとしては、撮影中のシモンの背後にロープで死体を下ろすのは不用心だったとか、発砲してきた相手に気球で反撃しただけなら正当防衛という主張はしても良かったんじゃないかとか、シモンの誘拐(と電話)は必要性が感じられない上に足が付きまくっていたので行動としては不用意だった……などは感じました。
ぶんせきくんの映像ではあたかも生存した大統領が歩いているような後ろ姿が映っていましたが、"映像"解析ツールならばいくらなんでももう少し不自然に映るはずなんですよね。これはラスボスの落ち度以上に前後を見て検証しなかった御剣達に問題があると思いますが。
影武者殺害は本人にとってもエラーでしたが、正直銃声だけでも怖がってオドオドしていたような人物が気球を見るなり発砲するというのもおかしくはあるので、これは犯行の流れからして知らないやり取りがあったと疑うべきなのかもしれません。
黒幕から御剣への電話は物語的には大きく盛り上がりましたが、結果的に電話のせいでシモンの居場所を特定されたほか、会社の名義で借りている倉庫に誘拐した子供を隠しているのも危なすぎるとは思います。一応誘拐理由は国の司法を一切信用していない彼の性格が表れていたというのと、彼自身『ゲームをアヤツルモノ』であることを楽しんでいた素性は最後の対決での発言からも透けており、誘拐自体はバレでも良かったとは考えていたのかもしれませんね。
改めて見ると犯行のムジュンも目に付くとは感じましたが、そのような不自然さは逆転裁判シリーズでは少なからずあることなので、あまり気にするのも野暮ではあると思います。
他に再プレイで面白かったことといえば、ナツミさんの功績が大きすぎることでした。
4話では推理の大半が彼女の証言や写真をもとにしたものでしたね。彼女が撮影した写真は5話において黒幕の尋問に繋がる決定的な証拠品となりました。
ナツミは逆転裁判4以降ではめっきり登場しなくなったものの、実はそれ以前の時系列の作品においては矢張と互角の登場回数を誇るというスゴいキャラだったりします。本家シリーズでは敵に回ることが多かったものの、今作では心強い味方と化していたように思います。
余談ですが検事2は最後につきつける証拠品が≪シシユリの花束≫というのも味があって良いですね。花言葉は親子のキズナ。
当時本作に魅了された理由は上記の通り伏線回収と黒幕のインパクトの二つにありましたが、逆転検事2は大人になった今プレイすることで見えてくる良さもかなりあったと感じました。
というのも、本作のテーマ性となっている「生き方の探究」というのはお恥ずかしいことに当時は全く読み解けなかった部分でした。なんとなく親子がテーマになっているぐらいのことは感じていましたが、エピローグの内容などは全然理解できていませんでしたね。
中でも18年の時を跨いで事件を解決する3話は今読むと感動エピソードでした。
特に胸を打たれたのはオヤシキさんの半生でしたね。彼女が女優となってお金を稼ぎ続けたことも、一歩間違えれば人の命を奪ってもおかしくないような事件を起こしたことも、全ては父親同然の存在であったテンカイチを思ってのことでした。
御剣も美雲も一柳も、先代を尊敬しながらも最終的には自分なりの人生を選択していました。しかし、オヤシキはテンカイチから「自分のやりたいことを見つけてほしい」と言われたのにも関わらず、それでもなお18年間テンカイチのことだけを考えて生き続ける選択をしていました。
やりたいことを見つけろと言われても、彼女のやりたいことはそれしかなかった。このいわば『親離れ』のアンチテーゼのような人生というのも、多くの登場人物の人生が交錯する検事2で提示された解答のひとつだったと感じました。
あとは検事2を語る上では欠かせないキャラクターといえばイチリュウですよね。検事2にしか登場しない上に最終話の後半は姿を消すということで、出番自体はシリーズ全体で見るとかなり少なめなのにも関わらず、人気投票では大抵上位に居る辺り彼の人気の高さが伺えます。
彼に関してもプレイしていた当時は「ダメな奴が活躍しててなんかアツい!」程度の感情で読んでいた節がありましたが、改めて見ると彼の一連のエピソードには大きな意味が込められていることがわかります。
御剣自身も「生き方を見つけられない自分と違って彼は自分なりの生き方を見つけた」と言っていた通り、エピローグで御剣が辿り着く結論である「父親とは違う検事になる」という道へ、一柳は一足先に到達することになります。御剣は一柳に対して私が道を指し示すと言っていましたが、一柳の行動もまた御剣への指針となっていました。
了賢への復讐を放棄したシモンの台詞は、本作の締めに相応しいものでしたね。「自分は満足できても周りの人に迷惑がかかる」というのがシモンの子供なりの主張であり、その「周りの人」の気持ちを考えることができなかったからこそ事件を起こした黒幕との対比となっていました。
黒幕は人間関係に恵まれていなかったわけではなかったと思いますが、肉親である風見に捨てられた過去、権力の大きすぎる3人に追いかけられ続けて疲弊したという傷が深く、周りの全てを信用できなくなっていました。
2話で御剣に救ってもらった事実を経験してもなお御剣の行為を「弁護士ごっこ」と揶揄していたこと、唯一の親友として交友を深めていたはずの内藤を思い込みで殺害してしまったことなど、他人から優しさを向けられても彼の在り方が最後まで変わらなかったことは劇中からもわかります。
そんな黒幕に対して御剣は憎悪を向けるのではなく、「事件の被害者の一人」として救っていく覚悟をしました。それはもはや当初の彼の「被告人を全て有罪にする」というスタンスとは正反対を行っていたと思います。
つくづく本作で描かれたのは御剣の人物像に関わる壮大な事件であり、黒幕は御剣の人生の方向性を決定づけたキャラクターだったと感じました。
BGMは追究の人気がやはり高いと思いますが、個人的に一番好きなのは『対決 ~プレスト2011』です。シリーズを一通りプレイした今では全ての尋問・対決BGMの中で最も好きな曲となりました。
御剣セレクションで収録された検事2のアレンジBGMは、全体的にギターの主張が強い大胆なアレンジが施されています。サックスパートが完全に撤廃されてしまっているものまであったので、個人的には検事2のBGMに関しては原曲の方が好きでしたね。「格ゲー用アレンジ」として聴けばこれも良くはあります。
検事1のBGMは原曲が静かすぎると感じていたので、こちらはアレンジの方が好きでした。