
2015年12月18日にChelseasoftより発売された18禁恋愛アドベンチャーゲームです。
シナリオは各個別ルートの大筋がかなり似通っており、BGMの絶対数の少なさ、演出の不備や誤字なども多かったです。元はフルプライスのゲームでしたが、正直なところゲームとしては素人目線でも粗い部分が多かったと感じました。
しかし、クリアした後では「このゲームに出会えて良かった」と心から思わせてくれた作品でした。
所謂泣きゲーと呼ばれるジャンルのゲームをプレイした時の「とにかく泣ける」ような感動を覚えることはありませんでしたが、本当にここまで感情を揺さぶられた作品は久しぶりだったと思います。クリアしたのは8月でしたが、今でもこのゲームのことばかりを考えてしまいます。
OP曲『sign』とED曲『空恋』が本編のシナリオと親和性が高く、人気があると思います。ゲームをプレイしたことはないけど曲だけ知っているという方はしばしば見かけます。
とりあえず今後プレイする方に最も伝えたいのは、必ずソラルートを最後にプレイしてくださいということです。ルートロックして……。
追記よりネタバレを踏まえた感想になります。
アイリルート
映画監督志望と女優志望ということで、お互いに切磋琢磨しながら夢を目指していく王道ルートでした。
そもそも映研なのにも関わらず映画作りの世界に興味のあるヒロインがこの子しかいないというのもなんだかおかしな話ですよね。全ルート中で見ても唯一挫折(のような)展開が待っているということもあり、楽しませてくれるシナリオだったと思います。

一体どこが子供っぱいなんだ……?
後輩キャラが最も巨乳というのも"趣き"がありますよね。
タクトがアイリのことを意識しちゃっていく過程や、アイリの夢が自分の夢にもなったことを自覚するところは好きでした。
このルートで意外だったのは、問題の解決手段が主人公によるものではなかったということでした。
アイリはオーディションで失敗をして辛口批評をされたことで落ち込んでしまいました。しかし、それは単に監督が不器用すぎたせいだった……ということを、ヒカリの持ってきた雑誌によってタクト達は知ることになりました。
この手のゲームは主人公がヒロインにイケメンな言葉をかけてあげて立ち直らせるというのが王道パターンではあると思います。
しかし、タクトはアイリにかけてあげられる言葉が思いつかないと言い、特に行動を起こすことはありませんでした。結果としては自動的に解決されましたね。
最初にこのルートをプレイしたときは、本作の主人公は案外頼りないのかな? という印象を受けました。
と言っても文句が言いたいわけではなく、これはこれでひとつの形ではあるのかなと感じました。別に自分としては美少女ゲームで主人公の見せ場をいちいち求めているわけではなく、下手に教訓めいた内容にする必要性もないと思うので。
単純に他のルートでもタクトはこんな感じの立ち位置に収まるのかな? という疑問が浮かびましたね。
まあ、実際にクリアした後ではこのゲームの主役はソラであり、最後はソラが全てを持っていく話だったので全くどうでも良くなりましたが。
エピローグでは映画監督としてデビューするタクトと、女優としてデビューするアイリの姿が描かれました。順風満帆の人生を歩んだ二人でしたね。
最後のCGで髪飾りをつけていたのは良かったです。王道だけど好き。
ナミルート
確かにアイリルートと違ってタクト君が頑張ってはいたのかもしれませんが……それ以外は全く同じ展開でしたね。
タクトが映画コンクールの優秀賞を受賞し、今年中に海外へ留学することが決まり、ヒロインとの涙の別れ!? と、ストーリーは完全に一緒でした。
ナミルートは他の個別ルートと異なり、ED曲『空恋』に真っ向から喧嘩を売っていく選択をしていくことになりました。物凄いと思ったのは、そのナミさんと海外に行く決断を"当日に"することですよね。
夢も希望もないことを言ってしまいますが、チケットもパスポートもないのに当日出発ができるわけがなく、そもそもチケットとパスポートの取得には法定代理人の同意が必要になります。
当然進路を両親に決められているナミさんが学園をほっぽり出して取得するのを認めてもらえるはずがないんですよね。何かの間違いで密航できたとしても不法滞在です。
「世界を敵に回してヒロインと歩んでいく駆け落ちのような展開」は自分としては好物ではあります。
そういう意味でタッくんの宣言も法の壁や両親への説得なんて俺がなんとかしてやるぜという気概での覚悟だったのかもしれませんが、具体的な解決手段が提示されることはなく、これまでに語られてきたタクトの人間性と能力を考慮すると「映画製作の才能がある以外は平凡な高校生」の域を出ることはないので、そうは感じられませんでした。
まあ……もしかしたらこの世界では未成年でも保護者の承諾なしにチケットもパスポートも取得できるのかもしれませんね。大元を辿ればナミさんが学生寮の管理人になれているような世界観ですからね。
終盤の畳み方の突貫さはもとより、ルートの長さが体感アイリルートの半分以下な上に全年齢CGも4枚しかなかったので、やはり制作中に急遽付け加えられたルートだったか、もしくは制作が間に合わずにプロットを流用されたのかなと考えてしまいました。
一応ソラルートを見た後だとつべこべ言わずに「映画みたいなラスト」と収拾をつけても良い気がしました。
もっと擁護するなれば、映研活動記録を媒介としている世界である以上は大筋が何気ない日常となるのは必然であり、その先の正史と異なる展開が粗雑でワンパターン気味なのは「ソラのキャパシティを基盤に創造されているから」で説明できるんですよね。つまりソラが海外渡航の常識を持っていなかったことによって、勢い重視の映画展開が起こってしまったと見ることもできます。
良かったところで言うと、余裕のある先輩キャラだったナミさんが主人公の留学を前にして駄々をこねる立場になるというのは面白かったですね。
他にも交際を始めた途端にポンコツになるなど、王道とも言うべき年上キャラのギャップ萌えは抑えられていたように思います。
また、Hシーンに中々力が入っている(と思う)ゲームなので、そういった面で需要のあるキャラクターなのは間違いなかったと思います。それにしても巨乳しかいないなこのゲーム……。
ヒカリルート
ソラルートをプレイした後では思うところのあるルートですね。普通に告白できるんだぁ……と。
ソラ自身もタクトとヒカリがくっついた時は驚いていましたね。やはりソラという登場人物が追加されたことによって少なからず歴史が変動したのだと思われます。
他の個別ルートも同じ理由で説明できそうです。ヒカリに関してはやはりライバルが登場して焦燥感が掻き立てられていたと考えるのが胸に落ちそうです。
最後のお別れはグッときましたね。
生まれたときからずっと一緒にいた幼馴染。最長4年のお別れとはいえ寂しくないわけがなかったです。
建前を抜きにして抱き合う二人の姿は印象的でした。

ええええええっ!? の声と顔好き。
ソラルート
ソラが別世界のもう一人のヒカリであり、そしてタクトとの死別を通ってここに来た人物であるということは、ソラルートを最後に置いて進めてきたプレイヤーならばとっくに勘づいていた事項だったと思います。
自分は当初その別世界というのはてっきり別世界線の話だと思っていました。
しかし、ソラの回想が映写機を回すところで止まっていたこと。思えばソラが出現したタイミングもちょうどタクトたちが映研活動記録を見ている最中だったこと。「シーンは終幕に向かっている」「この映画」という表現が使われていたこと。そういうことだったのか……と思いました。
決してソラは人生をやり直していたわけでも、タイムリープしていたわけでもない。
現実の世界は残酷でした。

説明が最小限に抑えられたシナリオだったので、一応タイムスリップだったと考えることもできると思います。
しかし仮にそうだったとしても、その過去の世界は数ヵ月で壊れてしまうほどに脆く、歴史改竄によって現実を変えるようなこともできていなかったので、「人生をやり直せる」類のものでは決してありませんでした。そこまで行ったら「過去」というよりは「過去を模倣した世界」に飛ばされたのと変わりないでしょう。
それにしても実際にソラが何年後のヒカリなのかは最後まで明かされませんでしたが、頑張ったと豪語していた勉強や料理のスキルが当時のヒカリに毛の生えた程度のレベルにしか成長していなかったというのも、彼女の要領の悪さが感じられて微笑ましかったですね。料理はまだしもテストは同じ問題なのでは……?
タクトの授賞式というタイミングで世界の終わりが秒読みになったのは、映研活動記録にはそれより先の記録は存在しないからでしょうか。
それにしては意外ともったな……とも思います。アイリルートではしっかりエピローグが描かれたりしていたので、いるはずのない登場人物であるソラがメインヒロインとなったことで世界に負荷がかかったという可能性もありそうですね。
加えてソラが「ヒロインが絶対にするはずのない行動」を起こすことによって、秩序の崩壊が発生したと考えると面白くはあります。
タクトがこの世界で病気にならなかった理由は明言されませんでしたが、共通ルートにおける二人がかりの看病が予防になったのか、そもそもこれがソラの妄想に限りなく近い世界だからある程度は都合の良い歴史改変に融通が利いている、ということなのかなと思いました。ナミさんやアイリと恋仲になる未来にもちょっとしたことで分岐していましたからね。
当初自分はソラルートの終盤では、消滅していくソラとの涙の別れが用意されているのかと思っていました。
「うわぁ~行かないでくれソラ~😭」とオエンオエン泣く寮生たち、「タッくんのことは任せてね!」という月並みな誓いを立てるヒカリ。セピア色のCGのスライドショーと主人公の独白、今までありがとう、そしてさようなら。
泣きゲーにおける王道とも言うべき"お別れ"、離別の悲しみを丹念に描いた演出です。
しかし、そんなものは本作には用意されていませんでした。
それもそのはずです。なぜならこのゲームはどこまで行ってもソラが見ていた一本の映画の話でしかなかったのですから。
それが『ソラコイ』の世界の真実であり、ソラの最後の選択の理由でした。
当記事では便宜上彼女のことをソラと表記していますが、彼女こそが本物の『ヒカリ』であり。
そして、この物語で唯一の本物の登場人物でした。
世界の終わりが近づいていく中、ソラは本来ないはずのこの歴史の中で、晴れて恋人となれたタッくんとイチャラブしながら残りの時間を過ごす選択だってできたと思います。
そして最後は自分がヒロイン役となった映画の中、自身の正体を打ち明けて、上記のようなお見送りをされる。
あくまでヒロイン役に徹し続けることで、この世界を最後まで「ソラルート」にしたまま閉幕する選択。主演女優兼神である彼女ならば、そんな結末だって選べたと思います。

ヒカリルートでタクトの考える「泣ける映画」の形が、実際にそうでしたね。
しかし、彼女が最も気にかけていたのは自分自身でもなく、想い人のタクトでもありません。ヒカリでした。
それは彼女がタクトから告白された際に一度断ったことからも表れていると思います。自分がこの世界では本物のヒカリでないことに気づき始め、タクトとの交際を間違ったものであると拒否した瞬間です。
ソラコイ最後のCGがヒカリとソラが向き合っているものであるというのもそうです。
性格が合わないとも、仲が悪いと言われようとも。彼女の瞳に映り続けていたのは、もう一人の自分自身でした。
ソラはこの世界ではタクトに想いを告げることも、病気にならなかったタクトと恋を成就させることもできていました。
「タクトに告白する」というプロセスをゴールしていた場合、それをクリアできていたと見ることは全然できると思います。
しかし、その告白というのは自分からしたものではなく、あくまで返答でしかない。何よりも自分はどこまでいってもこの世界では『ソラ』でしかなく、『ヒカリ』ではない。彼女もそれは理解していました。
『ソラ』は本来映画の登場人物ではない、イレギュラーな存在。
自分に光は当たらないから主役にはなれない。自分に似合わないからシンデレラにはなれない。
それを悟った彼女は最後に"舞台"から降りる選択をしました。
そして、幼馴染としての関係が崩れることを恐れていたヒカリが勇気を出して一歩踏み込み、タクトに想いを告げることのできた世界。
それが彼女が本当に思い描き続けてきた一瞬であり、彼女が本当に後悔し続けていたことにほかならなかったのでした。
彼女は"主演女優"から一度だけ"監督"となり、自分の望むシーンを役者たちに演じさせました。
自分の彼氏に片思いしている人物を告白させるように唆せる。タクトとヒカリの両方を困惑させるものであり、とても利己的なオーダーでした。

彼女の選んだエンディングは、秘密を打ち明けることで自分に目を向けさせるのでもなく、二度と会えないタクトと最後のその時まで愛を育むわけでもない。
きわめて自分勝手でありながらも、ささやかで孤独な結末でした。
最後のスタッフロール演出も感動的でしたね。
これまでの個別ルートにおける「変わらない一枚の背景の中のエンドロール」というのも映画っぽいエンディングで良いなぁと思っていたのですが、ソラルートではより一層映画のエンドロールを想起させてきました。

ソラルートだけが例外だったのは、このゲームの真実が紐解かれるこの世界線だからこその演出だったと思いますが、何よりも今ここで一本の映画の上映が終了したことを意味しているのだと感じました。
他のルートではエンディングに入る前にフェード演出が一切使われていませんが、ソラルートのみホワイトアウトからのトランジションが使われていたのも印象的でした。
まとめ
ソラルート以外の個別ルートは尺が短い上に全て似通った構成となっているので、プレイしていて盛り上がりに欠けるとは感じてしまいました。
一応アイリルートはお互いに夢に向かって頑張っていることを感じさせられるお話であり、尺の長さも相まって少なからず起伏のあるストーリーだったと思います。
しかし、ナミルートは上記のように製作の背景を邪推してしまったほどであり、メインヒロインだと思われていたヒカリルートですら「イチャイチャしたあと主人公が海外留学をして終わり」という一点が変わることはありませんでした。
また、細かい部分におけるゲームとしての完成度についても首を傾げる部分はありました。
ソラルートは位置づけとしては明らかにTRUEなのにも関わらず、ルートロックがされていないというのは構造上問題になっていると思います。
BGMは短い上にループ再生ではなくリピート再生であり、種類数も少なかったです。日常BGM『今日もこんな日』なんて何回聴いたかわからず、もはや今日もこんな曲でした。タイトル用BGMは存在せず、タイトル画面ではOP曲『sign』が流れ続けます。
誤字は目に留まるレベルには多く、ボイス設定ミスなどもありました。
エフェクト演出も極力少なくされており、特にエンディングに入る前にフェード演出一切なしに突然ブラックアウトした時は不具合かと思ってしまいました。なんというぶつ切り感……。
自分は本作を500円で購入しましたが、本来はフルプライスのゲームです。
正直なところボリュームも作り込みもフルプライスにしては足りなすぎると感じてしまいました。定価でこのゲームを購入した人が怒るのは無理もないと思いました。
ゲームとしてのクオリティには疑問符が浮かんでしまいましたが、それでも心に残してくれるものは確かにあった作品でした。
それは絶対的TRUEエンドであったソラルート、そして本編とリンクしているOP曲とED曲です。
OP曲とED曲の歌詞の意味について
中でもエンディング曲の『空恋』は神とさせてください。
歌詞から察するに、この楽曲は離れた土地から恋人を想うタクトの歌う曲だと思います。
しかし、ヒカリルートとアイリルートはそれに該当する展開となっていましたが、全てが虚構だとわかったソラルートは……。
現実のタクトはとうに亡くなっており、ソラが指切りした約束を守る相手は既にいませんでした。
この曲はOP曲『sign』に対するタクトのアンサーソングのようにも聞こえるのですが、個人的には映画の世界はソラの白昼夢に限りなく近い世界だったと解釈しています。
ソラが目を覚ました時点でその世界は霧散したと思っているので、映画の中のタクトが意思を持ってソラを想って歌い続けている歌であるとは自分は考えられなかったです。
続きがない世界だったからこそソラはヒカリに告白を唆せるという、登場人物達を困惑させて恋愛映画としての秩序を崩壊させるような行動に出たのだと思います。
「僕はいつまでも忘れないだろう」「思い出にはしないでよね」など、数年間の別離というよりも今生の別れを示唆しているような歌詞ではありますから、TRUEを歌った曲であるという考察がほとんどだと思います。
しかし、それでもタクトのことを完全に蔑ろにして踏み台として扱ったあの結末を見せられてしまっては、やはり自分はソラルートのタクトとソラの関係性を示す曲であるとは考えにくかったです。
ソラルートでは世界が終わりを迎えた途端にエンドロールとしてこの曲が流れていたこと、他の3つの個別ルートでもこの曲が使われていたことから、やはり空恋は結局のところ「『ソラコイ』のテーマソング」ではなく「『映画』のテーマソング」でしかなかったと感じました。つまりはソラルート以外の個別ルート、もっと言うなれば「ヒカリとの幸福な恋」を歌った曲でした。

タクトの病気が都合良く快復し、恋人との4年間の離別が描かれた、映研活動記録から顕現したお涙頂戴の恋愛映画。
そんな限りなく幸福で、現実にはなかった仮初の未来を歌っただけの曲でした。
ED曲だけではなく、OP曲『sign』も名曲ですよね。
ソラルートのことを歌っているのはこちらの方だと思います。着目すべきはサビの歌詞です。
主役になんてなれなかった
僕に『光』は当たらないから
諦めた想いを『空』に捨てた
シンデレラにはなれなかった
きっと僕には似合わないから
隠してた涙は『空』に消えた
紛れもなくソラの胸中を歌っている曲だと考えられますが、特に自分が好きなのは二番のフレーズでした。
「シンデレラにはなれなかった」。仮に王子様が消えた姫君へ想いを募らせてしまうのでは、それはシンデレラになってしまいます。
なんともOP曲とED曲との親和性に注力されていた作品だったと思います。
Q&A
わかりやすい泣き所がなく、世界の真相が明確に説明されることもなく、結末を迎えたソラルート。疑問符が浮かんでしまった方も多いと思います。
なんと言っても解釈の余地に幅がありすぎる作品だったので、自分なりの解釈を今一度まとめておこうと思います。
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Q.結局この世界はなんだったの?
A.ソラが映研活動記録を再生した瞬間に発現した異世界だったと思っています。
いわば亡くなったタクトが見せていた幻だったのか、ソラの白昼夢に限りなく近い世界だったと考えています。歴史の改変にある程度融通が利いているのもそのせいです。
Q.ソラが最後にヒカリに告白させたのはどうして?
A.ソラが最も後悔していたことは自分がタクトに最期まで想いを告げられなかったことであり、タクトと恋仲になれなかったことではありません。ですから彼女のゴールは「ヒカリがタクトに"自分から"告白すること」でした。
それはヒカリの背中を無理矢理押して実現させたものであり、既に恋人のいるタクトを困らせるものでしかありませんでしたが、それでもなお彼女が最も思い描き続けていたシーンであることには違いありませんでした。
また、signの『主役になんてなれなかった 僕に光は当たらないから』という歌詞から読み取れる通り、自分が脇役になることがこの世界にとって正しい形であるという思考もそこにはあったのかもしれません。
いずれにせよあのタイミングでの告白によってヒカリとタクトが無事に結ばれるはずもなく、登場人物達を困惑させるような独りよがりの選択であることは違いなかったと思います。
Q.じゃあなんでソラはタクトの告白にOKを出したの?
A.「自分はもしかしたらヒカリじゃないかもしれない」という発言から推測できる通り、告白された時点ではまだ彼女自身世界の真相を完全には理解できていませんでした。
告白を一度断った辺りは自分が部外者である予感をしていたのが理由だったと思います。しかし、それでも自分がタクトを想っていた事実は変わらず、タクトと恋人になれなかったというのは彼女の後悔の一つには違いなかったので、後日OKを出したという胸中だったと考えられます。
Q.ヒカリが告白した瞬間話が終わったのはどうして?
A.映研活動記録をベースにしている世界である以上、タクトが受賞した後の話は本来存在しない完全ifストーリーとなってしまうので、いつ崩壊してもおかしくない状態となっていました。
もしくは「夢だと気づいた途端に目が覚める現象」と同じくソラが世界の真相に気づいた時点で世界の終わりが秒読みとなっており、ヒカリに告白させるという無茶苦茶な行動に出たことによって決壊した可能性もあります。
Q.アイリルートのエピローグでは世界が数年先まで存続しているように見えたけどなんだったの?
A.アイリルートのエピローグはソラルート以外で唯一のエピローグパートということもあって、文字通りソラが見ている夢だった可能性があります。
もしくは上記のようにソラルートで世界が閉じた理由をソラの自覚と置くならば、単純にアイリルートではその自覚が起こらずに世界が壊れなかっただけの話かもしれません。
Q.映画世界はソラが脱出した後も続いていくの?
A.ヒカリの告白の結果が全くどうでもいいものとして有耶無耶にされたこと、ソラが映写機を止めるシーンが意味ありげに描写されていたことから、自分は映写機を止めた時点で世界は完全に消滅したと考えています。
ソラはこの世界が作り物であり消滅するのがわかっているからこそ、告白させるという傍若無人な行動に出たのだと思います。
感想
上記のソラルートの感想で書いた通り、ソラの正体がタッくんと死に別れた世界のヒカリであることはクリア前から十分わかっていた上、OP曲とED曲の歌詞からして別れが訪れることも読めていました。
そういう意味で自分の中でハードルが上がっていた状態でプレイしたのですが、本作はオーソドックスな泣きゲー展開のアンチテーゼのようなラストを迎えるということで、プレイしていて驚かされました。
疑問が残った部分も非常に多く、本当に描写や説明が足りてなさすぎる作品だと思います。
しかし、自分としては理屈を明かすことなく説明を最小限に抑えていた、人ひとりの生を描き切ることに注力した作風だったからこそ魅了されました。
終盤は完全にソラ視点に切り替わるのにも関わらず、世界の真相は言語化されない。エピローグ後のテキストもたった5クリックのみ。
もはやプレイヤーを置いてけぼりにする気満々のシナリオであり、正に「言葉などいらない」を地で行った巧妙な作品でした。
自分は泣きゲーと言われるジャンルのゲームをプレイしていて泣くことはあまりなかったのですが、このゲームでは感情がぐちゃぐちゃになりました。
散りばめられたヒントから世界の真相を知ってしまった時の驚き。
現実はどうにもならないことを知った時の喪失感。
その中で最後は孤独に舞台から降りることを選択したソラ。
一本の映画を見終えた後のようなスタッフロール演出。
そして終幕に、エピローグで映写機を止める『ヒカリ』の姿を見て、涙が流れてしまいました。
号泣したというわけではなかったのですが、胸にぽっかりと穴が空いたかのような、一筋の静かな涙が流れるような感動を味わせられました。
『ヒカリ』が最後まで自分の正体を明かさなかったことも、まともな別れの言葉すら告げずに世界に幕を閉じたことも、登場人物達を困らせる自分勝手な行動に出たことも。
これが夢であるという自覚と同時に、自分自身のことを本来ここにいるべき存在ではないと見なしていたからだったと思います。
"主演女優"だったのにも関わらず身勝手に舞台から降りて"監督"となり、最後は"観客"として俯瞰する立場を選択したこと。
そして、「シンデレラになる」よりも「他人の告白を見る」という、傍から見ればほんの小さな願い事を優先したこと。
登場人物もプレイヤーも全て置き去りにしていったその生き様は、徹底的なまでにエゴでありながらも孤独なものであり、とても美しかったです。
どこまでも謙虚でありながらも、どこまでも傲慢な少女でした。
長い夢から覚めた後、現実世界で最愛の人が亡くなっている事実は変わらず、自分が最後まで彼に想いを告げられなかった事実も変わらない。見方によっては「救いようのない結末」とも言えると思います。
しかし、『ソラコイ』を締めくくった彼女の前向きな表情は、そんな悲哀を感じさせることはありませんでした。
最後に『ヒカリ』がタクトに「私こそありがとう」と言ったこと。
これは劇中で告白したヒカリに対してタクトがありがとうと言っていたので、それに対しての「私こそ」という言葉だったと思います。
別に自分が告白したわけではないのに、他者に向けられた「ありがとう」に対して彼女が「ありがとう」と返したこと。
彼女はやはりソラというオリジナルキャラクターではなく、最後には劇中のヒカリに自分を重ねたということが表れていると感じました。
このゲームの結末を大雑把なものと見なし、この記事に書いてあることを詭弁だと笑う方もいらっしゃると思います。しかし、それもまたひとつの答えです。
『ヒカリ』が独自な解釈で世界を観たように、プレイヤーも独自な解釈をして世界を観る。それが『ソラコイ』という作品だったと自分は思いました。

どの登場人物に感情移入し自己投影するのも、そこから自分が何を受け取るのかも、鑑賞している人の自由です。
「素敵な映画だったよ」と言うように、全ては映画の物語であり、彼女はその観客でしかなかったのですから。
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