2017年5月26日にDOLCEより発売された18禁恋愛アドベンチャーゲームです。
ソラコイのED曲である『空恋』のアレンジバージョンが流れると聞いてプレイを始めたのですが、適当な理由で手を出したことを後悔するぐらいドロッッッドロのゲームでした。
パッケージイラスト、7×3つも用意されているエロシーン、プレイ時間8時間前後で終わるボリュームなどから抜きゲー的な作品かと思いきや、シナリオが非常に濃密なゲームでした。
ジャンルとしては所謂浮気ものに該当すると思いますが、特筆すべきはヒロイン達の灰汁の強さです。なんかもう狂人しかいなかったです。彼女達によって彩られるドラマが本作の魅力だったと思います。
無論作風から賛否は分かれると思いますが、自分はとても好きになれた作品でした。プレイして良かったです。
追記よりネタバレを踏まえた感想になります。
カナ
イツキに『悪戯』を指示していく最初の印象が強すぎたので、このゲームのシナリオはカナを中心に展開していくのかなと当初は予想していました。
しかし、最終的には登場人物の中で最も普通の子として幕を閉じましたね。意外すぎる。
イツキを脅迫して行為に及ばせていくカナは、当初は飽きっぽい性格をしていて他者を遊び道具としてしか見ていない類の人間であるように見えました。
しかし、実際は他人を守る為に嫌なことを進んで我慢していくような優しい性格こそが彼女の本質でした。
カナが飽きっぽく物事に固執することができないのは事実でしたが、その中でも自分と父親の繋がりを示す一片として打ち込めているものがありました。彼女はそんな自分が唯一大切にしていたものから逃げてしまったストレスから自棄になってしまい、憂さ晴らしとしてイツキへ悪戯を指示していたというのが真相でした。
大雑把な言い方をすると「本来は優しい子だけど挫折で歪んでちょっとお茶目してただけ」というのがカナの真実だったわけで、これは物語の世界では案外オーソドックスな設定のキャラクターだと感じます。
最初は嫌な感じに見えたキャラに実は可愛そうな過去があって、なんか良い奴っぽく見えてくる……というのは王道ではありますよね。そういう意味でも本作の登場人物の中では極めてまともなキャラクターだったと感じました。
とはいえ、その「お茶目」の部分はどう見ても行き過ぎていたのは事実です。いくら辛い過去があって、いくらイツキが始めた物語とはいえ、無関係のイツキに対して好奇心半分にあのレベルの脅迫をしていたわけですからね……。
ちなみに「もしもこのゲームにカナがいなかったら?」というifの話をするならば、個人的にはカナがいなくても事態は普通に動いていただろうと思っています。寝取りたがりのミクは結局靴下オナ二ーのネタをチラつかせるなりしてイツキを奪う為に手を尽くしてくるでしょう。イツキの恋愛感情も共通ルート時点ではほとんどミク>ユリだったことが伺えるので、あっさりミクENDのような結末はミクによって手繰り寄せられてしまうのではないかと思いました。
しかし、ここまでイツキとユリが面白くなった(ミク談)のはカナの思いつく悪戯がイツキにぴったり噛み合っていたからだったと感じます。少なくとも悪戯好きの変態カメラマンとしてのイツキの黒がああまで開花したのは、カナの才能があってこその光景だったのではないでしょうか。本人が狂信的なカナのファンを自称していますからね。
作中で天才と評されるカナの思いつく数々の悪戯は彼女自身が思っているよりも才気的であり、イツキはすっかりと魅入られていました。自身は悪戯をストレスの捌け口として指示していたに過ぎないため、イツキの変化は彼女としては不本意であり、偶然の産物であったことが感じられます。
総評としては、登場人物の中で最もまともなのは間違いないですが、実行犯として物語を大いに搔き回してくれた女の子だったと思います。
作中でイツキの中の黒を最も育てたのはカナだと思いますが、上記の通りカナは登場人物の中では真っ当な人間なので、彼女のルートが最も気持ちの良い終わり方をしています。
ユリに対しては黒が開花する前に謝罪することができましたし、エピローグでのあの雰囲気を見ている限りでは大丈夫そうにも見えます。
ミクにしてもここまでイツキとカナの関係がハッキリとしないものならば、全力で堕とそうとしてくることはなさそうです。共通ルートの段階で引き離そうと動いていたことは伺えたので確証はありませんが……。
全てにおいて子供であることを美徳としていたルートでしたね。
キスもしない、名前呼びもしない、そもそも恋人でもない、共犯者の関係。こうして言葉で着飾りながらこれ以上の関係に進まないようにしているところも含めて如何にも子供っぽいです。
ペンキで学校中に落書きをするという突発にも程がある悪戯を始めること、彼らのその後がどうなるのか語られないということも含めて、「私は大人にならない」という結末だったのかなと感じました。
ユリ
ユリという名前からしてタイトルと深い関わりがありそうだったメインヒロイン。
このキャラクターの印象に関してはカナとは真逆でしたね。
甲斐性無しの浮気男である主人公にただただ振り回されていく、いたいけな被害者というのが彼女の本作での役割。……であると信じていました。
タイトル画面とパッケージ絵のビジュアルはこのルートの終盤で回収されます。
最初はこれがキービジュアルなのは抜きゲーみたいでおもろいな……と笑っていた部分だったのですが、あからさまに写真映えを意識したようなこの構図は主人公がエロカメラマンに堕ちていくことを暗喩しているのかな? なんてことをプレイしながら感じるようになっていました。
実際はこのたくし上げはユリが自分から勝手にやったものなので撮影とは関係なかったのですが、場面としてはユリの黒が開花する直前の最後の儀式であり、自分の想像以上に重大なシーンでした。
ユリの自供はどこからどこまでが真実なのかわかりませんでしたね。
やはり写真を貼り出したのはユリだったのでしょうか。ミクも自分がやったと言い張っていましたが、カナルートやミクルートの描写を見る限りでは当事者達は事実と異なるものだと考えてるように思います。
ミクの悪い噂を流していたことも告白していましたが、あれもどうなのでしょうかね。ミクの告発とは確かに符合するのですが、お互いが狂人なので嘘がたまたま一致した可能性も全然ありそう……。何この世界。
しかし、ユリは交際前から自分に嫉妬の目を向けていたとミクが話していたことや、ユリ視点のト書きで「他の人に(イツキを)盗られるのは絶対に嫌」と言っていたことから、少なくとも元々嫉妬深い性格をしていたのは事実となってそうです。
ユリに関してはミクのように自分の思考をペラペラと話してくれることがなかったので、作中の行動のどこまでが彼女の地に近しいと言えるのかが難しかったです。
本当の本当に終盤の終盤に行くまではハッピーエンドで終わると信じて疑いませんでしたね。
いっぱい陽の目を浴びて、いっぱい栄養を貰って、愛情を注がれて、いよいよ開いた黒の花。イツキによって育てられたカサブランカの蕾がついに咲き誇りました。
イツキは彼の人生を賭けてユリが幸せになるのを見続けなければなりません。ユリだけを見続ける。それが約束だったのだから。
周囲の干渉を振り払って彼女と一からやり直していくことを決意したイツキの未来は、真摯に交際を続ける主人公などではなかったです。既婚女性をストーカーする「ヘンタイさん」でした。
最後の悦ぶ体を押さえつけながらカメラを構えたという一文が良すぎました。これがなかったら普通の鬱ゲーだったのですが、イツキの中の黒もこの状況を満更でもない光景としているのが、すごい心に来る……。
え? メインヒロインの結末こんな風にするゲームあっていいの?
とはいえ、浮気男の結末としては自業自得なエンドであると見ることもできます。ここまで酷い結末になったのはどう考えても周囲の人物のせいもあるのですが、どこまで行っても発端は靴下オナ二ーを始めたイツキなんですよね。
きっとユリにとっては、イツキをフったわけでもなければ、イツキに対して報復をしたかったわけでもなかったのだと思います。少女ユリの別れ際の言葉が「ずっと一緒に行こうね」であったことや、大人ユリがまた見つけてもらいに来ると話していたことから、彼女の中でイツキに対する愛があったことは自明です。
しかし、周囲の登場人物によって自身の中の黒を開花させられたユリは、こうした歪み切った愛の形を肯定する少女へと変化したのだと感じました。
それは本質としてはユリのことを愛しながらも彼女の痴態を撮影し続けることで傷つけていたイツキと同じだったのではないでしょうか。
自分の彼氏を誰にも盗られたくなかった嫉妬深い少女は、遂には彼氏を自分だけのものにすることに成功したのだと思いました。
ED『空恋』も他作品から出張してきた楽曲ですが、このルートには馴染んでいるようにも感じます。
イツキがユリと恋人同士だった期間は存在するので、「手を繋いで歩いた帰り道」も「照れ笑いをして好きと言ったこと」も嘘ではないですからね。何よりも「指切りした約束」という言葉が……重い。
元々は「会いたくても会えない恋人同士のラブソング」のような楽曲ですが、元恋人のストーカー男のイツキには奇しくもぴったり嵌まる曲となっています。
本作の『空恋(Summer memories Ver.)』について(ソラコイのネタバレあり)
ソラコイのどのルートよりもこのゲームのユリルートの方が空恋の歌詞に沿ってませんか????
自分の空恋の解釈としてはあちらの感想でも書いたのですが、空恋はソラルートのことは一切歌っていない曲であり、単なる「『映画』の主題歌」であるとしか考えていません。
そのヒカリルートやアイリルートの主題歌であると考えても「たかが数年間の別離でしかないのに大袈裟すぎない……?」と思えてしまう歌詞なので、しっくり来ないという気持ちはありました。
しかし、その点ユリルートの空恋は「本当に絶対に結ばれない男女同士」の曲として、ひどく胸に落ちるものとなっていました。
特にサビの歌詞が強いです。「指切りした約束」の関係すぎる二人だし、「ここからでも歌う」しかないのですから。
しかしながら元々の楽曲のイメージが「会いたくても会えない恋人同士のラブソング」のような甘酸っぱいものであったのに対し、ユリルートを代表としてしまうと「ただのヘンタイストーカーのポエム」という解釈が第一になってしまうというのはいかがなものなのか……?という気持ちにもなってきます。
「Greatest girl」という恋人に向けていたはずの賛辞が狂信的なキモいものとなり、「思い出にはしないでよね」が一方的な必死すぎるお願いになってしまいます。美しかった歌詞がヘンタイのポエムに成り下がる。なんということだ。それでいいのか俺達の空恋は……?
ミク
まあ今までに見えていたミクの情報では、彼女は独占欲が強い女で古典的なヤンデレでしかないから、ユリルートほど酷い内容にはならんだろう……。
なんて思っていましたが、全然そんなことはなかったです。
今までのミクの悪い笑い方は独占欲の強さを示唆しているのかと思っていましたが、彼女の本性はまさしく人を人だと思っていないほどに邪悪でした。
カナの最初の印象を「飽きっぽくて他者を遊び道具としか見ていない人間」と前述しましたが、真にそれに近しいのはミクの方でしたね。
ミクは全てを裏から操っていた少女であり、本作の黒幕でした。
実際には登場人物それぞれの行動量の域が彼女の想像を遥かに超えていたので、本作の顛末全てが彼女一人に操作された結果であるとは言い切れません。しかし、様々な事情が折り重なった結果お互いがお互いを育て合っていた他の登場人物達と比較して、ミクは周囲に干渉されることがなく何物にも染まることのない悪意を持った人間であり、作中随一のゲームメイカーであったことは間違いないと感じます。
全ての始まりであった靴下も彼女の仕込みによるものだったことが判明しました。
エロゲの最後のエロシーンでこの雰囲気見せられるのどうすればいい?
靴下に始まり靴下に終わるなんて本人が言ってたから感動するとこなのか?
イツキに最も栄養を与えていたのはカナだと思いますが、ユリの中の黒を育てたのは彼女による成果が大きかったのかなと感じました。
上記の通りユリがああなってしまったのは嫉妬とイツキの疑心によるものなので、多くはミクのせいだと思います。ミクからすればイツキのおかげなのでしょうけど。
共通ルートの時点でもミクはイツキに対してユリに気を付けるように忠告していましたが、あれもミクの創作だったようにも思えます。実際は終盤のユリの言動もミクの言動も蝙蝠でしかないので判断が難しすぎますが……。
エピローグではミクはまた新しい関係性を探しに行くことが示唆されていました。
終始主人公達を手の平の上で弄び続けたミク。イツキもユリもカナも結局ミクにとってはただの他人でしかありませんでした。
ミクは他者を遊び道具としてしか見ていないと上述しましたが厳密には少し異なり、彼女自身はこうしたカップルを破滅させる行為を続けながらも、実は自分の心を奪ってくれる王子様を待ち続けていることが語られました。
つまりその実態は「恋に恋する女の子」です。あらロマンチック☺️
ということで、彼女も実際のところは恋愛を肯定している人間であることが伺えます。
むしろ最終的に男を捨てて自分を追わせることを愛の形とするユリや、最終的な関係性が共犯者以上に昇ることがなかったカナと比べると、ちゃんと女の子らしく恋をしようとしてるんじゃないでしょうか?
本作はイツキがたまたまミクのお眼鏡に叶わなかっただけなので、ミクは悪くありません。イツキがミクを超える狂気を持っていれば良かっただけの話ですからね。
……まあ、そんな狂気を持つような奴が主人公の作品は恋愛ゲームとして破綻しており、そもそもミクはゲームのようなドラマチックなものはこの世に存在しないと見なしているので、彼女を攻略できるギャルゲ主人公が現れることは決してなかったでしょう。
自分に好意を抱く男性に対しては一切の興味を持たず、他人のものである男性に対しては全力で関係性を破壊してくる。
『ルート破壊』と『ルート拒否』を行ってくる彼女は、もはや美少女ゲームのアンチテーゼのようなヒロインだったと思います。ヒロインであってヒロインではなかったです。ここにいることがおかしいのですから。
まとめ
おい!! なんだこのゲームは!!
自分が所謂ノベルゲームと呼ばれるジャンルの名作を中心にプレイしてきたことも関係しているのかもしれませんが、ここまで惨い方向性の作品をプレイするのは初めてでした。
自分は浮気ものといえば某Leafの名作は履修済みなのですが、恋愛の切なさやままならなさを浮気を通して描く方向性だったあちらに対して、こちらが主軸としていたのは人間の悪意だったと思います。
イツキが救われないように感じるところもありますが、根源はどこまで行ってもミクの靴下でオナ二ーを始めたイツキにあるので、怒ることができないのも事実です。
というかよりによってカナ→ユリ→ミクという順番でプレイしてしまったので読後感は最悪でしたね。
他の人に勧める時はこの順番で勧めようと思います。最後に種明かしがされる方がカタルシスもあるからね。
ちなみに余談なんですがyoutubeに上がってた空恋(Summer memories Ver.)の動画の映像が浴衣の女の子が花火を前に振り向きながら涙を流している一枚絵だったので、イヤ~今のところ陰鬱なゲームに見えるけど青春っぽい終わり方するルートもあるみたいで楽しみだぜ!なんて期待しながら進めていたのですが、普通に全然勘違いだったしクリア後にあれはオリジナル作品の無断転載画像だったことを知りました。
なんとも心の痛くなるゲームでしたが、本作には一重に鬱ゲーと評してはいけない濃密な人間ドラマが込められてたのは事実でした。
ストーリーとしては進行度に準じてキャラクターの秘密が徐々に紐解かれていく構成となっているので、シナリオゲーとしても楽しむことができました。
最初一番ヤバいように見えたカナが実は一番まともであり、一番まともに見えたユリが一番ヤバいルートヒロインへと成長してしまい、清楚に見えたミクが実はヤバいと見せかけて実は超ヤバかったです。
ルート次第では最後の最後で驚きの開示がされることもあったので、衝撃も大きかったですね。
作風から賛否の別れる作品なのは言うまでもないと思うのですが、正直なところ自分はかなり好きなゲームでした。
本作の最大の魅力はやはりユリ・カナ・ミクというヒロイン達の破壊的なキャラ魅力に尽きると思います。シナリオは彼女達+主人公の行動のみによって進行していくこともあり、キャラクターの掘り下げに終始特化されていた作品だったと思います。
作中でも言及されていたように彼女達は狂人です。しかし、狂人だからこそ個性が強すぎる魅力的なキャラクターばかりでした。
狂人達がお互いによって変化を続けていく四角関係の関係性は邪悪でありながらも美しく、浮気ものというだけには留まらない替えの利かない作品であることを感じさせられました。
ヒロインは誰が一番好きだったかと言われると難しいです。
見た目の第一印象ではミクが良い塩梅の体型だしロングだしで可愛いなと思っていたのですが、このゲームで第一印象や女の属性的好みを語るのは不毛すぎます。
ENDで最も衝撃を受けたのはユリだし、ギャップが激しく逆の意味で異彩を放っていたカナにも惹かれましたが……やっぱり一人選ぶならばこのゲームをこのゲームたらしめてくれた平山ミクになりそうです。
晴れ渡った青空に恋を掲げるミクさん。
BGMは絶対数自体は少なくループ再生もされませんでしたが、曲自体は耳に残るものがとても多くて好きでした。
中でも『Manic』と『Infixing』が良かったです。本作の異様な世界観を形作るのに関与していました。
OP曲『不完全Lover』も名曲ですよね。大好きです。
普遍的な失恋ソングのように聞こえますが、「最後の笑顔の意味は秘密よ」という歌詞は本作の後味の悪い結末を見た後ではゾッとするものがあります。
本作と強引に結びつけるならばやはりユリルートの楽曲となり、一番の歌詞はユリに捨てられたまま青春に取り残されているイツキのことを、二番の歌詞は内側の黒が育っていくユリの様子を歌っているのかな……? と感じました。
何よりもタイトルが良いですよね。不完全な恋愛しか叶わなかった彼女達に相応しい。
このゲームのプレイを開始した動機となっていたED曲『空恋(Summer memories Ver.)』ももちろん良かったです。本作とセットにしてしまうと全然青春やら甘酸っぱさやらとは乖離した曲としての解釈しかできませんが……それでも曲自体はやはり最高でしたね。
※当記事の画像の著作権は全てMORE / DOLCE様に帰属します。