駆け抜けたい伝説の途中

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【しゅがてん!-sugarfull tempering-】感想

2017年2月24日にRecetteより発売された18禁恋愛アドベンチャーゲームです。

Recetteってどこだ……? と思っていたらゲームを始めた途端UIのおかげで一瞬でわかりましたね。ぱれっと系列のブランドでした。

 

しらたま先生の原画とさかき傘先生のシナリオが魅力の作品でした。これだけでも買う人が出てくるのではないでしょうか。豪華タッグですね。

 

 

自分はレビューのような文章は苦手なのでこれまでは書いて来なかったのですが、ぶっちゃけで面白かったかどうかを直接聞かれる機会も増えてきたので、今後のAVG記事はネタバレを控えたレビューもざっくり書いていこうと思います。できるだけ。

 

  • クリア時間は10~15時間。CG枚数、BGM総数ともにミドルプライス作品として標準的。
  • 主人公は大人の男性でヒロインは女子高生。キャラデザの画風に沿った口リものと言える(?)
  • 記憶喪失の主人公が切り盛りする洋菓子店の日常を描く物語であり、萌えゲー寄りの作品。掛け合いは面白く、キャラクターは魅力的に描かれていた。ケーキを美味しそうに頬張る女の子が可愛いゲーム。
  • 日常全振りの萌えゲーなのかと思いきや全然そんなことはなく、ルート毎にプレイヤーの予想を裏切る展開や伏線回収等がしっかり練り込まれていたので、シナリオ構成の完成度は非常に高いと感じた。
  • 中でもメインヒロインの氷織のルートはシリアスな筆致であり、『奇跡』の定義を問う哲学的テーマを内包した物語となっている。他の2ルートの内容を踏まえた集大成のようなルートであり、ボリュームも他ルートの2倍以上に感じた。最後にプレイすることを推奨。
  • 逆に言えばめるとショコラのルートは氷織のルートと比べるとボリュームが約半分。内容に不満はなかったが、尺の格差があることは寂しかった。この二人が目当てで購入する人は注意が必要かもしれない。

 

個人的おすすめ度は★★★★☆です。

やはり有名なライターの方が執筆しているだけあって、シナリオ構成も日常の掛け合いも面白く、万人受けしやすい作品だと思います。年齢差カップルは道徳的に受け付けないとか、巨乳以外認められないという人でない限りは勧めやすいミドルプライス作品であると感じました。

 

 

 

 

共通ルート時点の感想

キャラデザのカラーリングと洋菓子店経営という設定から、サジェストに某アニメの名前が出てきたりしている作品です。

自分としては同じくしらたま先生が原画を担当されているあまショコを想起させられる作品だったので、典型的なキャラゲーであると予想していた。

しかし……いきなり主人公が記憶喪失というまさかの設定からスタート。全然そういう話はやっていくつもりなんですね……。

 

とはいえ、記憶喪失の主人公を取り巻く謎が謎を呼ぶ世界というわけではなく、なんなら記憶喪失前の主人公の全てを知ってそうなキャラクターが普通に身近にいます。伏線ゲーのように真相に段々と近づいていくような感覚は(共通ルートの段階では)あまりありませんでした。

どちらかと言えばその設定は、「記憶喪失に対する各ヒロインの向き合い方」等のキャラクターの対比構造の描写において活用されており、本質としてはやはりキャラゲーなのだと感じました。

 

 

共通ルートの大筋としては、買収寸前のお店を主人公のクロウが切り盛りして復活させるというお話。

めるの祖父や小町の祖母などのモブの主張も中々に濃く、賑やかな世界観でした。

 

小町に関しては出番は多めでソロCGもありましたが、攻略ヒロインというわけではないのでしょうか。面白キャラなのに残念です。

(そもそも何歳なんだろう? 氷織達の学校は卒業済みっぽいけど。)

 

 

クロウは終始敬語でヒロイン達と接するという珍しい主人公でした。話していく内にヒロインに「タメ口でいいよ笑」って言われて徐々に言葉を崩していく系かと思ってましたが、少なくとも共通ルートでは最後まで敬語口調だったので新鮮でしたね。

普通に仕事してる人間っぽいし、身体の大きさがよく言及されてるから、設定的には大人なのかな? でもめるは君付けで呼んでくるし……うーん。

ヒロイン達と友達のような距離感で接するシーンが見れることがない反面、人格が完成されているおかげで会話の安心感が異常でした。主人公がヒロインを弄るようなことも言わないし、ヒロインも主人公を弄ってこない。優しい世界でほっこりします。

 

クロウの正体はホテルが雇ったパティシエであるヤマダさん……と見せかけて、まさかのミスリードでした。ちゃんと序盤に登場していたキャラが正体なの好き。

クロウの正体は共通ルートの段階では謎に包まれていました。潜在的に持っているスキルからしてパティシエ的な職人なのかなと思いつつ、彼のお知り合いであるあいらさんは"市長"とのことでその道の専門職ではないようです。なんか料理バトルのライバルコック枠辺りだと思ってたけど違うのね。

 

 

 

続いてはヒロイン三人に対する現時点での印象を綴っておきます。

それにしても全キャラ本当に可愛い。可愛い……。しらたま先生原画の作品は初プレイでしたが早くも虜になりました。

 

 

看板ヒロインは氷織。可愛かったですね。銀髪ロングに負けすぎてるからこの髪型見るだけで興奮するしぱれっと系列作品特有の後ろ姿の立ち絵あるから死ぬ

 

オリちゃんはめるとは逆にクロウの記憶を取り戻そうと奮闘してくれました。

最初はクロウには帰る場所があるからと主張していたけど、終盤でクロウの正体に関する推理を打ち明けるか言い淀んでいた辺りは、クロウと過ごしている内にめるのようにクロウがどこかへ行ってしまうことを忌避するように変化したのかな? と思ってなんだか感動した部分でした。

 

こういうパッと見しっかりしている女の子が実は不器用というギャップは王道で良いですね。「我が子を喰らうサトゥルヌス」の模写好き。

そして彼女の意外性は不器用なことだけには留まらず、共通ルートラストでとんでもない個性を発揮してくれました。コーヒーに少し含まれていた蜂蜜を摂取しただけで酔うって何……? 血糖値が原因にしてもドーパミンが原因にしてもすごい身体です。自分は「体重が増えるから甘い物を控えている」という小町路線の予想をしていたのですが、斜め上でした。

あとは後輩ができたことにククク笑いをしていたのも好きでした。個別ルートではその辺りの88の弱点が存分に語られていくのかなと思います。それにしてもOPで映っていたダイヤモンドダストのCGは……"善かった"。

 

 

めるはハイテンションな女の子でした。ショコラ相手の「帰れー!」は笑いました。

 

クロウの記憶を取り戻す為に頑張って行動している氷織とは違い、彼女はクロウの正体にはこだわりを見せませんでした。クロウに対しては妖精さんという呼称を使い、「クロウ君が何者でもボクはクロウ君が大好き」という言葉まで飛び出しており、今のクロウのことを誰よりも肯定してくれている女の子だったと思います。

この一連の発言と日常パートでの衝動的な行動の多さから、自分が信じた理想に縋っているロマンチストな女の子なのかな……という印象はありました。しかし、共通ルート終盤に店が存続できない現状を受け止め、クロウに対して感謝を述べる姿を見せてくれました。ちゃんと現実に目を向けられる女の子だったことがわかってギャップがありましたね。

 

クロウに対しての感情は現実から目を逸らしているわけではなく、目の前のクロウのことをそれだけ好きになったという彼女の姿勢が表れていたということだったのでしょうか。クロウは山田九郎(仮)ではなく、クロウであると。

彼女の個別ルートでは実際にクロウの記憶が戻るのか、その時のめるのリアクションはどうなるのか。楽しみですね。

 

 

ショコラは可愛いがすぎましたね。金髪ツインテール良すぎ。

カタコトの外人さんキャラってテンションが高めでキンキンした話し方をする設計が多いイメージがあるのですが、ショコラはぽわぽわした喋り方をするキャラだったので新鮮でした。こういう外人さんキャラが好きということも再認識させられました。

 

ショコラの出番は氷織やめると比べるとかなり少な目でした。しかし、ヒロインの中で唯一同居人ではない一歩遠い立場からクロウと接しているからこそなのか、共通ルートの段階からクロウに対して最も気持ちを募らせていることが随所の描写からわかります。いいね。甘酸っぱくて。

今のところ最も好きなヒロインです。最初にプレイするか二番目にプレイするかで悩みます。

 

 

上でも少し触れていましたが、記憶喪失のクロウに対する向き合い方や、「クロウ君椅子モード」への関心など、イベントを踏まえてヒロイン達の対比構造が描かれてるのが好きでしたね。

 

クロウの記憶を取り戻そうとする氷織と、クロウの記憶を追うことを放棄するめ

 

クロウを椅子にしない氷織、クロウを椅子にするめる、椅子にするもののガチガチになるショコラ

 

主人公の記憶喪失という設定がストーリーの仕掛けのひとつには留まらない、ディテールの細かさを感じました。

 

 

以下よりゲームクリアまでのネタバレを踏まえた感想になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めるルート

クロウとショコラのめるへの解釈は、「子供っぽいけど大人である」というもの。

「そんなに迷惑でないと判断したら途端に我儘になる」というのは正に的を得ていて面白かったですね。"そんなに"迷惑って漠然とし過ぎてるけど本当にそう。

大人であり子供であるというめるの特性は、めるの美徳でもあり厄介なところでもあると評されました。ちゃんと自分と周囲の立場を考えることができる子だから、子供相手のように簡単にご機嫌を取ることはできません。

 

 

共通ルートの時点では「記憶を取り戻したクロウを引き留めるめる」というベタな展開の個別を予想していたのですが、実際に立ち退こうとする姿が描かれたのはクロウではなく、まさかの氷織の方でした。

 

引っ越しは氷織の為であり、何より氷織自身がやりたいことなのがわかってるからこそ、めるはやっぱり引き留めることはできませんでした。

引っ越しの準備をしている氷織に対して手伝いをしようと声をかけたり、自分の為に時間を使わなくていいと発言する彼女の姿は、やはり大人だったと感じました。共通ルート終盤での大人なめるちゃんの印象通りであり、彼女は現実を受け止められる人間でした。

 

笑って見送りをする為に普段は明るく振る舞っている分、ピロートークで「クロウ君までいなくなったら泣いちゃう」と弱音を吐く姿は印象深かったです。明らかに我慢していたことがわかり、見ていて痛々しかったですね;;

 

本当は氷織にもいつものように我儘を言いたかったはずです。

大人であり子供でもある彼女は、我慢して自分の内に悲しみを溜め込んでしまうという性質が表れており、感情移入してしまった部分でした。

 

 

……と思っていたら、引っ越しは大嘘でした。ズコー。

 

周囲の人物はみんな共犯者であり、騙されていたのはめるとプレイヤーだけでした。なんということだ……。

氷織が自分の荷物をめるに見られそうになった時に慌ててた場面があったので、何かしら隠してそうだとは匂わせていましたが、引っ越し自体が嘘だとは考えられませんでしたね。

言われてみればショコラの台詞は明らかにショコラらしくない憂いを帯びていて違和感はありました。ルート序盤のめるから氷織へのサプライズも布石になっていたのだと思うと面白いですね。

 

 

会おうと思えばすぐ会える距離へ友人が引っ越しするだけの話であり、なんならそれすらも勘違いだったということで、物語のスケール的にはとても小規模だったと思います。

しかし、それでも綿密な描写でめるだけでなくプレイヤーをも騙し続け、最終盤に一気に伏線回収をするというシナリオ構成はお見事でしたね。

 

『合わない』ことが『合う』。

不思議なことに――、

ケーキにはよくある話だ。

ケーキ以外にも。

 

最初見た時は「そんなにこの二人って相性悪いのか?」って思ってましたが、全ルートをやった後では理解できました。

ミルクレープとイチゴソースの友情。詩的な締めくくりで好きでした。

 

 

 

ショコラルート

いや~可愛すぎる~。

作中でも猫みたいと比喩されていた女の子でしたが、「にゃ~ん」って甘えてくるの可愛すぎました。

語尾のデスも好き。良い。生クリームを吸ってるところも可愛かったですね。クロウは衛生面の心配をしてたけど思いっきりバックヤード外でエッチしてることの衛生を心配するべき。

 

 

ショコラはめるとは違う意味で明るく、氷織とは違う意味でまったりしていると、クロウは言いました。

店員三人の中でもアイドルのような華やかさを持っていると評され、氷織ルートでもクロウに相応しい女性であるとされていました。ケーキ作りの話で唯一ケーキが作れるヒロインって考えると、確かにそうなるのか……。

 

印象に残ったのは寝ているクロウに告白をしながらキスをする場面でした。一目惚れだったんだ……。

ショコラは氷織やめるとは違って遠い所からクロウを見ていた故に恋心を抱くまでが早かったのかと思っていましたが、それ以前の出会いの違いがもたらしていた気持ちだったようですね。一目惚れというのは運命的な理由であり、ロマンチストなショコラにぴったりだと感じました。

 

ショコラの兄であるガトーも面白かったですね。まずショコラの兄の名前がガトーて。

フォルクロールに足を運ぶ機会は少なかったというのに、ショコラの気持ちに秒で気づく辺りは流石お兄ちゃんでした。

それに対して「あんなデカい弟ができるのか……」と困っていたのは笑いました。もう脳内で結婚まで話が進んでるのが飛躍しすぎてて面白いです。ショコラの年の差恋愛を否定しないどころか、全面的に認めてくれる優しいお兄ちゃんでした。

 

 

伝承を信じ、願いという単語をしきりに口にするショコラ。

その姿はクロウのことを妖精さんと呼んでいるめるよりも狂信的であり、ショコラは誰よりも奇跡を信じている少女と言っても過言ではなかったです。

真相を知った後で見てみるとやはり相性が良いと言われるのも頷ける二人だったと感じます。奇跡を与えるものと、奇跡を信じるもの。

 

好きな文章。

 

 

登場人物達の願いが叶った瞬間に消失した二つの金貨。クロウの推理によって否定された伝承だけど、それでも願いを叶える存在は確かにあったのかもしれません。

プレイ時はご想像にお任せする奇跡ってロマンチックね……と感動した結末でした。

 

しかし、全ルートクリア後に改めて見てみると、物語の真相にかなり迫っていた話でもあったんだな……という見方に変わりましたね。一粒で二度美味しいルートでした。

 

冗談(大嘘)

自分が覚えていないだけでこういう匂わせはたくさん散りばめられてそうですね、このゲーム……。

 

最後に願いを叶える奇跡の力のことを「無償の愛」と論じたクロウ。あいらの反応は如何にも面白くなさそうでした。

自分達を特別な存在であると信じており、奇跡の力を人との交渉に使うことで市長の座をぼったくったあいらにとっては、愛を理由とするのは面白くない主張だった……ということでしょうか?

無償の愛として一方的に奇跡だけを与える存在というのは、まさしく記憶を失う前のクロウの仕事だったはずです。自分が持ってきた金貨に頭を悩ませているクロウのことを笑っていたあいらにとって、ちゃんと記憶を失う前の自分のような発言に辿り着いたクロウのことは、見ていてつまらなかったのかもしれません。

 

 

 

氷織ルート

残り一人だしちゃちゃっと読み終えちゃおうかなw ……なんて考えていたら終わらない終わらない。

ボリュームが他のルートの二倍近くありました。体感では2.5倍ありました。実際どうなのかはわかりませんが。

 

めるルートのおそのさんの妊娠や、ショコラルートの願いを叶える金貨(ダイヤ)の伝承のエピソードも盛り込まれており、まさしく集大成のようなルート。

他のルートよりも明らかにシリアスなパートが多く、随所の描写も丁寧であり、完成度が頭一つ抜けていたように感じました。今までのルートはなんだったんだ?と思えるほど。

 

 

その時はその時マインドのめると、ファンシーなものを信じるショコラと違い、氷織は物事に理由を求めようとする少女でした。

クロウの記憶を躍起になって取り戻そうとするというのは、やはりクロウを元の場所に返すことを躊躇っていないということ。クロウはフォルクロールのパティシエでありながらも、この空間の一員としては見られていないことを感じさせられました。

氷織、最後の攻略ヒロインなだけあってラスボス感もありましたね。このように壁を張って背伸びしている少女が徐々に落ちていくというのも見所のルートでした。

 

 

しゅがてんのヒロイン達は他のヒロインの恋心を察するのが早いのが特徴的でした。

それだけ三人の仲が良いということなのか、恋愛アンテナを張り巡らせているからなのか、あるいは態度がわかりやすすぎるだけからなのか。

 

その中でも氷織ルートのショコラは氷織だけでなく、クロウの気持ちを誰よりも、本人よりも早く察していたように感じました。最初からクロウを男として見ているからこその敏感さです。

クロウの様子に顔をほころばせながらも、寂しげな表情を見せていたショコラ。ショコラルートの直後にプレイしていることもあって切なかったです;;

 

 

このルートに限った話ではないのですが、クロウはとても頭が回る主人公としてかっこよく映りました。

作中で落とされた細かい情報から推理を組み立てる描写が多く、プレイヤー視点でも「その視点があったか……」と感嘆することが多かったです。EVEを読んだ時も思ったけど、さかき傘さんは本当に頭の良いキャラを書くのが上手い……。

 

印象に残っている場面は、やはりクロウの奇跡に対する考え方でした。

あまり何が本質か決めつけるというのも安っぽくなってしまうかもしれませんが、氷織ルートのテーマ、ひいては本作全体のテーマとも言える重要な内容だったと感じました。

 

 

クロウの持論を聞いた後での、こちらの氷織の反応も印象深かったですね。

冗談でめるのようなことを言っているのかと思いきや、一切冗談めかしていない口ぶり。

奇跡を信じようとしていなかった氷織だったけど、本当は奇跡を信じたい側だったってこと……? と感じられた場面でした。

 

氷織は中盤では奇跡という言葉に対して過剰な反応をしている姿を見られました。しかし、めるの思考のことを「大物すぎる」とリスペクトしている姿の方が、やはり彼女の本心だったのかなと感じました。

氷織は正反対でありながら大切な友人であるめるの思考を尊重していたし、もはや憧憬も抱いていたように思います。

 

 

全体的にシリアスな雰囲気が続いていた氷織ルート。メインヒロインのルートらしく、終盤にひとつの山場が用意されていました。

それはフォルクロールの命運を賭けた料理バトルトーナメント……!

……なんてことはなく、まさかの赤子の生命を賭けた帝王切開。え!?!?

 

初めてプレイした時はとても驚いたパートでしたね。このゲームの舞台は洋菓子店だし、クロウの正体もパティシエっぽかったのに、いきなりこんな話やってくるんだ……と。

手術中に氷織と小町が赤ちゃんをあやしているのは(ちゃんと怒られていたとはいえ)雰囲気が緩すぎるし、何よりも素人が帝王切開をするのは法的にも倫理的にもありえなさすぎます。初見では正直「命舐めとる……?」と思ってしまうところもなくはなかったです。

 

しかし、ゲームクリア後はこれもクロウの只物ではない正体に繋がる重要なエピソードということがわかり、納得の展開でした。

紛れもなく「人の手で」「不可能を可能にする」という行為。本作が説いていた奇跡の形として、わかりやすいモデルケースであったと感じました。

 

 

 

 

おまけ

ついに3ルートを読み終えました。

これで終わりかー……。クロウの正体は最後までわかりませんでしたが、彼らの言う通りいちいち理由を求めようとするのは野暮でもあります。

あいらの言動等から人ならざる特別な存在であることは匂わせられていましたが、やはり最終的にはご想像にお任せするという、オープンエンド的な結末ということでしょう。

クロウがここにいて、少女たちに幸せを届けていたということ。重要なのはそれだけなのですから。

 

……なんてことを感想には書こうと考えていたのですが、いつの間にかタイトル画面にエピローグというボタンが追加されていました。

最後の最後、気になるプレイヤーの為にあいらさんがこっそりと物語の真相を教えてくれました。

 

 

クロウの正体は我々がよく知る存在だったという真相。

見事にやられたトリックでしたね。山田九郎や赤井華って名前はそういうことかよ!!  と。驚くと同時に笑ってしまった部分でした。

 

唐突な種明かしではなく、正体に繋がる描写自体は自分が覚えている限りでも相当多かったです。参りました。

出会った時に「派手な服装」と言及された上で色や特徴が全く説明されないのは確かに思わせぶりな描写だったけど、それがまさか例の衣装だったとは思いませんでした。

今思えば思いっきり年を跨いでるこのゲームにおいて、クリスマスや正月の文化がまるでなかったことも違和感となっていたと思います。

上記のショコラルートの煙突の金貨等は、大いに正体に繋がるヒントとなっていましたね。最初から見返してみたら他にもいっぱい散りばめられてそう……。

 

ショコラルートで伝承に対してマジレスし、氷織ルートで奇跡の理由を求めないことを説き。

クロウの現実主義的な行動を見せられ、ノンフィクション寄りな世界観であるとみせかけて、エピローグでまさかの超ファンタジーな種明かし。この展開には度肝を抜かれましたね。

 

 

めるがずっと主張していたクロウ=妖精さんという推理は当たらずも遠からず……というか最も真相に近かったのが今考えると面白いですね。

同事務所の加山さんや中井さん、あいらさんも何かしら名前の元ネタが存在するのでしょうか。

 

 

 

 

まとめ

流石にキャラゲーだよなー……と思ってたらがっつりシナリオゲーっぽいことをやってきましたね。

めるルートとショコラルートは謎解き要素などのカタルシスは含まれていたものの、ボリューム自体は少なめで起伏には乏しかったです。これらをプレイした段階では本作はやはり洋菓子店の日常を楽しむタイプのえっちゲームなのかな、と考えていました。

 

そう思っていたからこそ、氷織ルート以降の雰囲気には完全に吞まれました。

ヒロインのトラウマに根差したシリアス調の構成。奇跡とは何か、という提唱。

哲学的な内容も含んでいたので、自分の頭では全て理解できたか怪しいのですが、文章力の高さには圧倒されました。

めるやショコラのことをロマンチストとして一蹴するのではなく、むしろ作品全体が彼女達に歩み寄るという方向性でした。意外であると思ったと同時に好きな部分でした。

 

そして、衝撃のエピローグ。

氷織ルートのテーマである「奇跡に理由を求めない」という部分をなぞり、クロウの正体は最後はプレイヤーに委ねる結末になるのかと思っていましたが、違いましたね。

しかし、種明かしをあえて本編外のエピローグに持ってきた作りと、ヒロイン達には内緒のままにし続けるという結末は、テーマとの一貫性を感じられた部分でした。予想外の真実を叩きつけられる驚きもあり、氷織ルートの内容を尊重していたという点で納得性もあるという、最高のエンディングでした。

 

 

ヒロインは……やっぱりショコラが一番好きかなぁ。

自分の"原点"である金髪ツインテールの良さを再認識させられました。猫みたいな性格もカタコトの話し方も好きすぎました。

 

銀髪ロングはそれはそれで神だし抜けるのでオリちゃんのことも好きです。

もちろんめるも好きです。あと小町とあいらさんも好きでした。結局みんな好き。

 

ミドルプライス作品ということもあってBGMの総数は流石に少なめでしたが、印象に残る楽曲も多かったです。

日常BGMで特に好きだったのは『お祭りにクッキーをどうぞ』です。ダイヤモンドダストのテーマである『星空の下でババロアと』はジャズ調の楽曲が多い中で耳に残りました。

 

 

 

本作の登場人物達の『奇跡』の捉え方はとても好きでした。

 

奇跡というのはワードとしての定義が曖昧であり、人によって意味はそれぞれだと思います。単調なことを奇跡と呼ぶ人もいれば、「奇跡は起こらないからこそ奇跡」という理屈もまた常套句であり、様々です。

本作はこれらのどれが正しいのかという話ではなく、このような人による解釈の違いを肯定していたように思います。

というのも、結果的に誰かのためになった幸せに対して、受け取り手側が勝手に奇跡と呼ぶものを奇跡としていたからです。

 

誰かが奇跡と呼べば、それは奇跡となる。世界は意外とあやふやなもので、世界は意外と奇跡にあふれている。

そして、ありふれていて都合の良いものではあるのですが、重要なのはその都合の部分ではありませんでした。

 

 

物語に対して否定的な感想や批評をする上で用いられる、「ご都合主義」という言葉が存在します。

シナリオライターは万人受けする美しいプロットを追求する職人でもあると思うので、少なくとも作り手にとっては完全に排していい言葉ではないのかもしれません。読み手としても作品を一歩引いた目線から見る行為というのは、自分の好きな作品への理解度を深める目的や他人に作品を勧める際には必要になると考えているので、自分だって使う時はある言葉です。

しかし、同時に主観でいくらでも文句を付けることのできる抽象的な言葉でもあり、読み手側の便利な叩き棒として乱用されやすいという風潮は自分は嫌いでした。

 

登場人物が掴んだ幸福に対して、理屈や理由を価値基準に置いて否定をする為の言葉が、ご都合主義だと思います。

そんな中で、奇跡には理屈や理由を求めないことを美徳としたのが、しゅがてんの在り方。因果性以前にそこに幸福があることこそが美しいと信じられるこの世界は、ご都合主義の反駁のようにも感じられてとても好きだった部分でした。

 

 

少女たちの下に舞い降りた男性は、ケーキ作りから帝王切開までこなせる最強の人間であり、確かに都合の良い存在だったかもしれません。

しかし、目の前の奇跡に理由を求める必要はなく、大切なのはそれを受け止める心であると、クロウは言いました。

 

クロウのことを「妖精さん」と呼んで受け入れためる。伝説が否定されてもなお「願いが叶った」という表現をするショコラ。

二人のような考え方をしていなかった氷織も、クロウとの出会いを通して変化をしていきました。

 

少女たちは奇跡に理由は求めない。だからこそ、クロウの正体に答えを求めない。

クロウはそんな少女たちを尊重し、偏に傍にいて幸せを運び続ける。子供たちの夢を守り続けるその姿は、伝承上の存在と相違ありませんでした。

 

 

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